BIRTHDAY

那千15

「ねえ、那岐。何か欲しいものってある?」
昼寝をしていたところに駆け寄ってきた千尋の問いに、そういえば九月かと豊葦原に来て疎くなった暦を思い出した。

「千尋」
「そんなオヤジギャグじゃなくて。ない?」
とりあえず定番の返しを口にすると予想通り軽くかわされ、那岐はふぅと息を吐きながら寝転んでいた身を起こした。

「じゃあ寝る時間」
「それは今もあったでしょ」
「千尋に邪魔された」
「もう。ないなら私が勝手に決めちゃうよ」

頬を膨らませる千尋に、今までの誕生日を思い返す。
那岐の好物を集めた手作りの料理や、遠夜に教えてもらったという玉。
そんな労力を避けるほど暇ではないだろうにと肩をすくめると、じっと千尋を見つめ返した。

「千尋」
「なに?」
「だから、千尋がいいって言ったんだよ」
「だから――」
「本気だって言ったら?」

またからかわれてるのかと千尋は頬を膨らませかけるが、思いがけず真剣な瞳に鼓動がとくんと波打った。
こことは違う世界にいた頃とは変わった二人の関係。
それはただの同居人でも仲間でもなく。

「え……と……それって…」
「一日女王を独占できる権。ま、千尋の想像した方でもいいけど」
「………!」

にっと微笑まれて、千尋は自分の想像に顔を赤らめた。
わざと曖昧な願いにして誤解するように仕向けた那岐は、成った策ににやりと微笑む。

「千尋はどっちをくれる?」
耳元で囁けば「どっちもいいよ」と返ってきた言葉に、今度は那岐が顔を赤らめた。
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