ぬくもり

風千7

不意に苦しげな声を耳にし、風早はそっと寝具から身を起こした。
まっすぐに向かうのは、千尋の部屋。

この世界に逃れてきてからまだ数か月あまり。
幼かった千尋は、目の前の惨劇に耐えられなかったのか、豊葦原の記憶を失った。
千尋に辛い思いをさせたくなかった風早には、それは好都合であったのだけれど。

「またうなされているのですね……」
そっと部屋の戸を開くと、ベッドの上で苦しげな声をこぼす千尋の姿が目に入る。
歩み寄って、優しく頭を撫でてあげると、千尋がふっと瞳を開いた。

「かざ……はや……?」
「はい。怖い夢を見ましたか?」
「……覚えてない。でも…悲しかった気がする……」
夢の内容は目が覚めると共に去ってしまい、感じた気持ちだけが千尋の中に取り残されていた。

「もう大丈夫ですよ。俺がいます」
「うん……風早、一緒に寝てくれる?」
まだ瞳に怯えを宿す千尋を、風早が優しく抱き上げる。

「ええ、一緒に寝ましょう」
「ありがとう……風早」
自分を抱き上げてくれる風早のぬくもりが身体を包み、千尋は安心して再び眠りへと誘われた。

「……また千尋うなされてたの?」
千尋を自分の寝具に寝かしつける風早に、眠い目をこすりながら那岐が問う。

「起こしてしまいましたか。もう大丈夫です。那岐も寝なさい」

「言われなくともまだ夜なんだから寝るよ……おやすみ」

「おやすみなさい」

背を向けて寝具を頭からかぶる那岐に、風早もそっと千尋の隣にもぐりこんだ。
幼い子供の体温は高い。
それでなくとも、千尋の存在は風早を暖めるぬくもりそのものだった。

「今宵は良い夢を……」
優しく髪を撫でると、千尋の瞳の端に残る涙の粒をそっと拭って、風早も瞳を閉じた。
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