お人形

風千6

「風早」
「はい?」
「どうして千尋の髪は長いの?」
「俺が千尋の髪が大好きだからですよ」
櫛で嬉しそうに梳かす風早に、千尋は小首を傾げようとして止められる。

「あぁ、動かないで」
「風早は短い髪の千尋は嫌い?」
「そんなことはありませんよ。千尋は髪を切りたいのですか?」
「……お友達にお人形みたいって言われたの」

顔を曇らせる千尋。
友達は“人形みたいに可愛い”と言いたかったのだろうが、12歳の多感な少女は悪い意味で捉えてしまったようだった。

「お人形みたいだと嫌ですか?」
「だって……みんなと違うもん」
「違くなんてないですよ?」
「お人形はお友達じゃないもん!」

友達に嫌われたと思い、瞳に涙をためてる千尋に、風早は髪を梳く手を止めると、目の前にかがんで視線を合わせて微笑む。

「その子は千尋がお人形みたいに可愛いと伝えたかっただけなんです。千尋のこと、ちゃんと友達だと思ってくれてるはずですよ」
「……本当に?」
「はい」

友達に嫌われたと誤解していた千尋の顔に、笑顔が戻る。
蒼の双眸に金の髪は、まるで絵本の中のお姫様のようで、どうしても注目を集めてしまうことになり、千尋は悩んでいたのである。
幼い頃のトラウマで、千尋は人からの拒絶を極端に恐れていた。
だから、こんな些細なことにも大きく胸を痛めてしまうのである。

「千尋はとっても可愛くていい子です。だから大丈夫ですよ」
風早の言葉は、まるで魔法のように千尋の心を軽くする。

「ありがとう、風早! 大好きだよ」
無垢な笑顔に、風早の顔にも笑みが浮かぶ。

「俺も千尋が大好きですよ」
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