Happy Valentine

風千28

「はい、風早!」
千尋から手渡された可愛い花柄の紙でラッピングされた箱を受け取り、風早がにっこりと微笑む。

「今年もありがとう。毎年千尋の手作りチョコがもらえるなんて、俺は幸せ者ですね」
「今年はちょっと頑張ったんだよ!」
「それは楽しみですね」
得意げな千尋に、風早の頬も緩む。

「千尋が初めてチョコを作ってくれたのは、小学生の頃でしたね」

「うん。友達が『バレンタインには大好きな男の子にチョコをあげるんだよ』って教えてくれて」

「一生懸命チョコを刻んでた千尋の姿が可愛かったですね~」

幼い日の千尋の姿を思い出し、微笑む風早に、千尋が照れながら頬を膨らませる。

「でも風早ったら『火は危ないから俺がやります』とか言って、結局手伝っちゃうからなんか自分で作った気がしなかったんだよ?」
「そうでしたか?」
「そうだよ!」

それから千尋は率先して料理を手伝うようになり、翌年からはチョコを作るときは風早をキッチン立ち入り禁止にしたのだった。

「でも、千尋は本当に料理が上手になりましたよね。この世界に来るまでは包丁を握ったこともなかったのに」
豊葦原では中つ国の二の姫であったために、そのようなことをする必要がなかったのである。

「でも、私はこっちの世界に来て、自分で料理したり買い物したり、そういうこと経験できて本当に良かったよ」

「どうしてですか?」

「だってずっと王族として育てられていたら、きっと民の視点で政を考えられなかったと思うもの」

禍日神を退けた千尋は、中つ国の女王となっていた。
今日は息抜き兼バレンタインチョコ製作に、異世界へと戻ってきたのである。

「それに、こうして自分でチョコを作って風早にあげられるもの」
ちょっと照れながら微笑む千尋に、風早も幸せそうに微笑む。

「ええ、俺も幸せですよ。千尋の側にこうして今もいられて、手作りのチョコをもらえることが、ね」
そっと抱き寄せると、風早は優しく千尋に口づけた。
Index Menu ←Back Next→