「え?」
歪んだ景色に驚いて。
一瞬後には、そこは懐かしい葦原の地。
「え? え?」
驚き辺りを見渡すと、隣りには白いスーツに眼鏡の風早の姿。
「はい、千尋」
「これ……ポッキー?」
「はい。今日の必須アイテムでしたよね?」
今日は11月11日。
確かに世間一般には『ポッキーの日』と呼ばれていたが、千尋にとっては別の大切な日。
そう、今日は風早の誕生日。
「風早、そんなにポッキー好きだったの?」
「そうですね。千尋がケーキを作ってくれてから好きになりました」
「………っ」
異世界にわたる前、まだこの世界の住人だと思い込んで暮らしていた頃、千尋は風早の誕生日にポッキーケーキを作ったことがあった。
そのことをさす風早の言葉に、千尋は頬を染めてじとりと睨んだ。
「……風早の意地悪」
「俺は意地悪なんて言ってませんよ? 本当に好きなんです、ポッキー」
にこりと微笑まれてはふてくされ続けるわけにもいかず、千尋は手渡されたポッキーを箱から取り出した。
ぽり。
口に放ると懐かしい味。
豊葦原の地では手に入らないその品に、自然と笑みがこぼれおちた。
「千尋、俺にもくれませんか」
「うん。はい」
差し出すも、なぜか風早は受け取らない。
「風早?」
「恋人同士は違う方法で食べるんですよ」
「え?」
何を言われてるのかわからず瞳を瞬くと、千尋の手から一本受け取り、それを咥えた風早が千尋につきだした。
「まさかポッキーゲーム?」
顔を赤らめ呟くと、そうだと頷くしぐさに戸惑う。
よもやポッキーゲームをねだられるとは思ってもみなかったのである。
「冗談だよね?」
困った瞳で見つめるも、風早に引く様子は見られない。
本気なのだと悟ると、千尋はしばしの逡巡の後、えいっと反対側を咥えた。
ポリ……と砕ける音。迫る顔。
食べることも離すことも出来ずに固まっていると、距離を詰めた風早が食む音と共に唇が触れた。
「!」
唇越しに伝わる食む振動が艶めかしくて直視できない。
そんな千尋に微笑むと、ポッキーを嚥下した風早が千尋の唇を深く食む。
「……ん……んっ」
「ごちそうさまです」
「……ばか」
離れた唇に真っ赤な顔を隠すように風早の胸に埋めると、小さく「お誕生日おめでとう」と言祝いだ。