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風千23

「う~ん」
湯浴みをしながら、じっと見つめるのは自分の身体。
そこは傷一つ、千尋が望んでいるものもなくて。

「はぁ……」
大きなため息を漏らしながら湯を出ると、用意されていた衣を纏い部屋へと戻る。

「どうしたんですか?」
「……え? 風早!? いつ来たの?」
「今ですよ。今日はずっと心ここにあらずという感じでしたが、どうかしたんですか?」

風早の言葉に、そんなにも考え込んでいたのかと、千尋は恥ずかしそうに頬を染めた。

「千尋?」
「あ、その、えっと……」

説明するのも恥ずかしく、困ったように見上げるが、にこにこ笑顔は無言で千尋の言葉を待っていて。
観念すると、目を合わせないよう俯きながら口を開いた。

「あの、ね?」
「はい」
「その……ないなぁって思って」
ようやく聞き出した内容は、しかし主語が見事に吹っ飛ばされていて、風早は再度千尋に問うた。

「何がないんですか?」
「……マーク」
「え?」
「キスマーク……ないなぁって」
告げられた思いがけない内容に風早が目を丸くすると、千尋は恥ずかしそうに頬を押さえた。

「な、なんでもないのっ! 今のは忘れてっ! ナシッ!!」
大きく手を振り、必死に否定する千尋に、しかし風早はにこりと微笑んだ。

「取り消してしまうんですか? 俺は忘れたくないんですが……」
「え?」
瞳を瞬く千尋に、つん……と指で肌を撫でる。

「――ここにつけていいのでしょう? 痕を」
「か、風早?」
「千尋のお願いを俺が聞かないわけがないじゃないですか」

千尋を抱き上げ、にこにこと嬉しそうに微笑む風早に、千尋の顔がこれ以上になく真っ赤に染まる。
キスマークをつけて欲しい、なんてなんと恥ずかしいお願いをしたのだろう!
今更ながらに羞恥心が沸き起こるが後の祭り。
あっさりと寝台に運ばれると、キスの雨が降ってきて、千尋の意識は甘く染められていった。
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