愛しき君に

風千12

「風早!」
駆けてくる千尋を、風早が両手を広げて受け止める。

「どうしたんですか? そんなに急いで」
「風早に早く会いたかったから、儀式が終わってすぐに走ってきちゃった」

息を切らしながらにこりと微笑む千尋に、風早の胸が熱くなる。

「風早は……その、苛められたりしていない?」

白龍の力によって時空の歪みが修正され、そのことによって風早の存在は無き者となってしまった。
道ですれ違った際、千尋が魂に刻まれた記憶ともいうべきもので、風早を認めなければ、今ここに風早の姿はなかった。

「大丈夫ですよ。皆忘れてるとは言え、やはり彼らは変わらないですから、ね」

いぶかしむ者も確かにいるが、同門の徒であった柊や羽張彦・忍人は、すぐに打ち解け、矯正される前のように風早のことを認めてくれた。

「このまま忘れ去られてしまっても諦められると思っていたのに、皆が心の底で俺を覚えていてくれたことがとても嬉しいですよ」

「だって、私に空や草やその他のこと、いっぱい教えてくれたのは風早だもん。忘れられるわけがないよ」

呟いて、風早の胸にすり寄る。
今、ここに愛しい人がいることを確認するように。
そんな千尋に、風早も抱き寄せる腕に力を込める。

「ええ、俺もです。あなたを忘れることなんてできるわけがない。俺を癒し、感情を与え、人にしてくれたのはあなたなのだから」

「風早、人になって後悔……しない?」

不安げに見上げる千尋に、瞳を和らげるとそっと口づけて告げる。

「後悔なんてするはずない。今、ここにあなたがいる。それ以上の幸福など、あるわけがないのだから……」
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