おねだり

風千13

「千尋、一緒に出かけませんか?」
風早の誘いに、千尋が嬉しそうに頷く。

「行く! どこに行くの? みんなで?」
「今日は俺と千尋二人だけです。どこに行くのかは秘密で。その方が楽しみが増えるでしょう?」
片目をつぶって微笑む風早に、千尋も嬉しそうに頷く。

「うん! 楽しみにしてるね」
無邪気に喜ぶ千尋を連れて、久しぶりに二人きりの外出。
いつもは必ずお邪魔虫がついてくるので、事前に根回しして風早はそれを防いだ。

* *

「うわ~! 綺麗~!!」
目の前に広がる光景に、千尋が嬉しそうに微笑む。
そこは聖地と呼ばれる、人があまり立ち入らない場所だった。
小さな泉が日の光できらきらと輝き、可愛らしい花が咲き乱れる。
千尋と風早が好きそうな場所だった。

「こんなところを知ってるなんて、さすが風早だね!」
「喜んでもらえて嬉しいですよ。お茶にしましょうか?」
しっかりお弁当を持ってきている風早から紅茶を受け取ると、千尋が満足そうに微笑む。

「この世界でも大好きな紅茶を飲めるなんて、風早のおかげだよね。ありがとう、風早」
素直に感謝を述べる千尋に、風早も笑みがこぼれる。

「俺にはそうして千尋が笑っていてくれることが、何よりの褒美ですよ」

「風早は欲なさ過ぎるよ。たまには何かおねだりしてみたら? 私に出来ることだったら、何でも叶えてあげるよ?」

千尋に問われて、風早がう~んと考える真似をする。

「おねだり、ですか? う~ん……何がいいでしょうね?」
普段はしてもらってばかりなので、千尋が期待に満ちた瞳を向ける。

「それでは……神子姫の祝福をくれますか?」
「祝福? それってどうすればいいの?」
首を傾げる千尋に、そっと顔を近づける。
そうして優しく唇に触れる。

「か、風早!?」
顔を真っ赤に染めて慌てる千尋に、風早がくすっと笑みを浮かべる。

「祝福、千尋からはしてくれないんですか?」

請われて、千尋が戸惑いながら風早にそっとキスする。
触れるか触れないかの、ソフトすぎる口づけ。
それでも、風早は満足そうに千尋を見つめた。

「ありがとうございました。俺は千尋が大好きですよ」
まっすぐ見つめて告げられ、千尋が耳まで顔を赤らめながらもこくんと頷く。

「私も……風早のこと、大好きだよ」

言って、そっと首に手を絡める。
真っ赤な顔を風早の肩に埋める千尋を、風早は幸せそうに抱き寄せた。
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