「ねえ?」
「ん?」
「アシュヴィンに弱点ってないの?」
いつもながらの唐突な問いに、アシュヴィンが瞳を見開いて千尋を見る。
「なんで俺の弱点なんて知りたいんだ?」
「だって……なんかいつも私ばかり困らせられてる気がするんだもん」
恥ずかしそうに頬を染めながら上目遣いに見る千尋に、アシュヴィンが不敵な笑みを浮かべる。
「ない。俺に弱点などあるはずなかろう?」
自信満々に言い切られ、千尋が頬を膨らませる。
確かに千尋から見ても、アシュヴィンは何でもこなす人で、弱点と思えるようなものはなかった。
「皇、皇妃、香草茶が入りましたよ」
「あ、リブ」
庭で語らっていた二人の下へ、お茶を届けに来たリブに、千尋が話を振る。
「ねぇ、リブはアシュヴィンの弱点知らない?」
「皇の弱点……ですか?」
千尋の質問に困った顔をすると、ちらりとアシュヴィンを見た。
「……それは皇自身が一番ご存知ではないかと」
「リブも思い浮かばないのか~」
リブの答えを勘違いした千尋が、ふうっと溜息をついた。
「そんなに俺に負かされるのが悔しいか?」
「当たり前じゃない。いつもいつもアシュヴィンの思い通りじゃ悔しいもん」
口元に手をやり、にやりと微笑むアシュヴィンに、千尋が頬を膨らませたまま頷く。
床でも絶対主導権はアシュヴィンで、いつも千尋は彼の腕の中で溺れさせられてばかりなのだ。
経験が足りぬ千尋が地位を逆転させるのは到底無理であったが、それでもせめて日中ぐらいはアシュヴィンに勝ち誇ってみたかった。
「お前には無理だ」
心の内を読み透かすように笑うアシュヴィンに、千尋の瞳に悔し涙が浮かぶ。
「お、おい……っ」
「……いっつもそうやって馬鹿にして。どうせ私は子供だもん」
アシュヴィンに背を向け、鼻をすする千尋に、倣岸な笑みを浮かべていたアシュヴィンがおろおろと相貌を崩す。
そんな二人の様を見ながら、リブはこっそり胸の内で呟く。
(あなたが弱点なんですよ、皇妃)
微笑ましい痴話喧嘩を始めた二人からそっと離れると、リブはほくそえみながら根宮へ戻っていった。