聖夜の後

アシュ千19

「あれ? それ、どうしたの?」
兄が首に巻いている襟巻きのようなものに、シャニが不思議そうに首を傾げた。
そんな弟に、アシュヴィンは自慢げに胸をそらす。

「これは『クリスマス』に千尋がくれたものだ」
「え? 義姉様が!?」
たたたっと駆け寄ると、じ~っと襟巻きを見つめる。

「……もしかして、義姉様の手作り?」
「そうだ」
ふんっと鼻をならす兄に、シャニが猛烈に抗議した。

「兄様だけずるいよっ!」
「俺の花嫁だ。当然だ」
「う~~~~」

頬を膨らませて拗ねていたシャニは、突然向きを直ると走り出す。
が、いち早く後ろから羽交い絞めにされて、足は空を駆けていた。

「どこへ行くつもりだ?」

「もちろん義姉様のところに決まってるでしょ! 僕のも作ってもらうんだよ」

「なぜ千尋がお前の分まで作らねばならん。采女にでも頼めばいいだろう」

「義姉様の作ったものが欲しいの!」

駄々をこねる弟に、アシュヴィンが頭を抱えていると、当の本人・千尋がやってきた。

「シャニ? 何をやってるの?」
「あ、義姉様っ! 僕、義姉様にお願いがあるんだ」
羽交い絞めされたシャニを驚いて見つめる千尋に、ここぞとばかりに願い出る。

「僕にも兄様と同じのを作って!」
「え? アシュヴィンと同じのって……マフラー?」
「こら」
拘束を解き、軽く小突くアシュヴィンに、しかしめげずにシャニが頷く。

「別に編むのはいいんだけど、毛糸が……」

「毛糸?」

「そのマフラーの材料なんだけど、とても珍しいものらしくてなかなか手に入らないみたいなの」

「え~~~」

「残念だったな」

ふん、と鼻を鳴らす兄に、シャニが頬を膨らませる。

「じゃあ、毛糸が手に入ったら僕のも編んでよ。約束だよ!」
「うん、わかった」
千尋が頷くのを見届けると、シャニは悔しそうに去っていった。

「シャニって寒がりなの?」
「いや」
義弟のあまりの欲し様に勘違いした千尋に、アシュヴィンが苦笑しながら抱き寄せる。

「これ、使ってくれてるんだね」
「当たり前だ。お前からの初めての贈り物だからな」
誕生日もバレンタインも、まだ戦っていた頃だったので、こうしてアシュヴィンと迎えられた行事は、クリスマスが初めてだったのである。

「もうすぐ誕生日もあるでしょ」
「誕生日……ああ、生まれた日のことか。お前のいた世界では、それぞれ個別で祝うのだったな」

戦火を逃れ、神の導きで異世界へと数年間逃れていた千尋は、豊葦原にはない不思議な慣習を持っていた。

「誕生日も、バレンタインも、これからいっぱい贈り物が出来るんだよ。ずっと一緒にいるんだもん」
眩い笑顔で告げる千尋に、惹かれるようにその唇に己のそれを重ね合わせる。

「ああ、これからもずっと一緒だ。ずっと、な」

この後、常世では毛糸を必死に探す皇弟と、手に渡らないようにと阻止する皇との、奇妙な攻防が見られたとか。
根宮に訪れた平和な光景に、リブはこっそり微笑むのだった。
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