指を絡めて抱き寄せて

アシュ千20

「綺麗ー!」
満開の笹百合に相好を崩す千尋に、黒麒麟の背から降り立ったアシュヴィンが苦笑する。
二人がいるのは、出雲の笹百合の谷。
あの戦の最中で、互いの素の姿を垣間見た思い出の地だった。

「お前は本当に笹百合が好きだな」
「そうだよ。あの日から私の一番好きな花だもの」
呆れたように呟けば、思いがけない返答に口をつぐむ。

「いつかこの場所に子供たちを連れてきてね。
ここはパパとママの思い出の場所なんだよって、そう教えてあげたいの」

初めて会った時も、二人きりで結婚式を挙げた時も、笹百合が祝福してくれたから。
その幸せな気持ちを子供たちにも伝えたいから。
そう、幸せそうな笑みを浮かべて語る千尋に、アシュヴィンはふっと微笑んだ。

「――ならば早々に子をなさねばならんな」
「え?」
「しかも我が后妃は、何人もの子をご希望のようだ」
「あ……っ!」
先程までの凛とした表情はどこへやら、顔を真っ赤に染めて慌てる千尋を後ろから抱き寄せる。

「真っ白で穢れなく気高い……笹百合はお前のようだな」

「それをいうならアシュヴィンだよ。いつも凛としていて、カッコい……」

つい本音が漏れて慌てる千尋に、アシュヴィンは口角をつりあげると口づけを落とす。

「花に例えられたのは初めてだな」
「そ、そう?」
照れて視線を合わさない千尋に微笑んで、柔らかな髪に顔を埋める。
陽光のように輝く髪は、千尋の存在そのものだった。

「――ありがとう」
禍日神によって恵を失い、荒廃していく常世に再び緑溢れる大地を取り戻してくれたのは、千尋だった。

「? 何か言った?」
「いや」
囁きを聞き返す千尋に、言葉を濁してその身をより深く抱き寄せる。
腕の中の愛しいぬくもりに満たされる自分に、しかし今はもう驚きはない。
寄り添い、慈しむ想いを知ったから。

「愛してる」
囁いて、かけがえのない存在に口づけた。
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