「綺麗ー!」
満開の笹百合に相好を崩す千尋に、黒麒麟の背から降り立ったアシュヴィンが苦笑する。
二人がいるのは、出雲の笹百合の谷。
あの戦の最中で、互いの素の姿を垣間見た思い出の地だった。
「お前は本当に笹百合が好きだな」
「そうだよ。あの日から私の一番好きな花だもの」
呆れたように呟けば、思いがけない返答に口をつぐむ。
「いつかこの場所に子供たちを連れてきてね。
ここはパパとママの思い出の場所なんだよって、そう教えてあげたいの」
初めて会った時も、二人きりで結婚式を挙げた時も、笹百合が祝福してくれたから。
その幸せな気持ちを子供たちにも伝えたいから。
そう、幸せそうな笑みを浮かべて語る千尋に、アシュヴィンはふっと微笑んだ。
「――ならば早々に子をなさねばならんな」
「え?」
「しかも我が后妃は、何人もの子をご希望のようだ」
「あ……っ!」
先程までの凛とした表情はどこへやら、顔を真っ赤に染めて慌てる千尋を後ろから抱き寄せる。
「真っ白で穢れなく気高い……笹百合はお前のようだな」
「それをいうならアシュヴィンだよ。いつも凛としていて、カッコい……」
つい本音が漏れて慌てる千尋に、アシュヴィンは口角をつりあげると口づけを落とす。
「花に例えられたのは初めてだな」
「そ、そう?」
照れて視線を合わさない千尋に微笑んで、柔らかな髪に顔を埋める。
陽光のように輝く髪は、千尋の存在そのものだった。
「――ありがとう」
禍日神によって恵を失い、荒廃していく常世に再び緑溢れる大地を取り戻してくれたのは、千尋だった。
「? 何か言った?」
「いや」
囁きを聞き返す千尋に、言葉を濁してその身をより深く抱き寄せる。
腕の中の愛しいぬくもりに満たされる自分に、しかし今はもう驚きはない。
寄り添い、慈しむ想いを知ったから。
「愛してる」
囁いて、かけがえのない存在に口づけた。