千尋争奪戦

アシュ千14

テラスでのお茶タイム。
いつもはアシュヴィンと千尋の二人きりなのだが、今日はそこにナーサティヤとシャニも加わり、とても賑やかだった。

「ねぇねぇ、もしも結婚相手が選べてたら、僕やサティ兄様を選んだりした?」
シャニの無垢な質問に、アシュヴィンが香草茶を吹き出しそうになる。

「シャニ、お前なんていうことを千尋に聞くんだ」

「だって、前に政略結婚の話が出た時は、僕たちの誰でも良かったんでしょ?
サティ兄様は常世以外は興味なくて中つ国には来ないし、僕はまだ若いってアシュ兄様がとっちゃったんじゃない」

頬を膨らませるシャニに、千尋はくすりと微笑んだ。

「それで? もし義姉様が自分の意思で結婚相手を選べてたとしたら、誰を選んでた?」
「シャニ……」
ぶしつけな質問をする弟を、ナーサティヤが宥めようとするが、シャニは全く気づかない。

「そうね……シャニもとっても可愛いし、ナーサティヤは命の恩人だし。アシュヴィンとの出会いが一番印象悪いのよね」

千尋の思いがけない言葉に、アシュヴィンがぎょっと彼女を見る。

「ち、千尋?」
「だっていきなり風早に剣を向けて、“こんな鄙にはそぐわない朗女”とかなんとか言ったくせに、黒麒麟を仕向けて酷かったじゃない」

抗議するような千尋の言葉に、アシュヴィンがぐっと言葉を呑む。

「じゃあ! 僕がアシュ兄様みたいにもっと大きかったら、僕を選んでた?」
「ふふ、どうかしら?」
「え~!? じゃあサティ兄様?」
話を振られ瞳を合わせると、ふいっとそらしてしまうナーサティヤに、千尋が苦笑を漏らす。

「ナーサティヤは私にそんな気は全くないわ」

「そんなことないよ! 敵に憐憫の情なんて絶対見せない兄様が、義姉様だけは助けてくれたんでしょう?」

「あれは、私があまりにも幼かったから、同情してくれて……」

「サティ兄様にそれは絶対ないから」

言い切られて、千尋が困ったようにシャニを見る。

「おい、シャニ。俺から愛しい后を奪うつもりか?」

「アシュ兄様が義姉様を泣かせたら、僕が奪い取っちゃうよ」

可愛らしい弟の宣戦布告に、アシュヴィンが不敵な笑みを返す。

「それは面白い。奪い取れるものなら奪い取ってみろ」
「あ!馬鹿にしてるね!」
揶揄する響きに、シャニはむっとすると千尋に唇を寄せる。

「!!」
「こら!」
触れる寸前でアシュヴィンが千尋を抱き寄せると、シャニが頬を膨らませる。

「キスぐらいいいじゃない!」
「よくない!!」

千尋のこととなるとムキになるアシュヴィンに、千尋が止めに入ろうと立ち上がった拍子にスカートの裾を踏んでバランスを崩した。

「きゃ!」
「危ない!」
ティーセットに倒れこみそうになった千尋を、ナーサティヤが腕を伸ばして抱き寄せる。
そのまま、二人とも椅子から転がり落ちて倒れこんだ。

「サティ、千尋大丈夫、か……」
慌てて二人へ駆け寄ったアシュヴィンが、その場で凍りつく。
もつれ合うように倒れこんだ二人は、唇がぶつかり図らずもキスした状態に。

「!」
「!!」
千尋が真っ赤な顔で離れ、ナーサティヤも口を手で覆う。

「あ~! サティ兄様ずるい!!」
頬を膨らませたシャニが千尋にキスしようとしたところを掻っ攫って、アシュヴィンが口づける。

「ア、アシュヴィン……っ!?」
「兄様ずるい!!」
腕の中で顔を真っ赤に染めた千尋と、抗議するシャニを見ながらアシュヴィンが不敵に笑う。

「俺の后だ。当たり前だろう?」
微笑ましい皇夫婦と兄弟のやりとりを、お茶のおかわりを届けに来たリブは微笑ましく見守っていた。
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