口づけしよう

サザ千4

「ん……」
「目ぇ覚めたか? 姫さんは朝が弱いな」
「サザキが早起きなんだよ」
ベッドに腰かけにかっと笑うサザキに、千尋は恥ずかしそうに眼を伏せながら身を起こした。

「隣りで可愛い姫さんが寝てるんだ。寝坊するなんざもったいねえだろ?」
「なっ……」

顔を赤らめた千尋に、すかさずその唇に口づける。
驚き固まった彼女に微笑むと、サザキは愛しげに柔らかな唇を指で撫でた。

「……ずっとこうして触れたいと思ってたんだ」

あれはまだ、天鳥船で旅をしていた頃のこと。
疲れがたまっていたのだろう、翼に寄りかかって千尋が寝てしまったことがあった。
風邪をひかせるわけにはいかないだろうと、腕に抱き寄せた瞬間、サザキはその寝顔に魅入られた。
伏せられた長い睫毛。
艶やかで柔らかそうな唇。
思わず引き寄せられるように口づけようとしたところで、風早の邪魔が入った。

「あの時からずっと、こうして触れたいと思ってたんだ」
「サザ……キ……」
再度下りてきた唇を、千尋は目を閉じ受けとめる。

サザキに攫われるように日向の一族と共に過ごすようになってまだ間がなく。
こうして唇を重ねる仲になっても、千尋は頬を染めずにはいられなかった。
サザキと触れあうことは嬉しいけれど、たまらなく恥ずかしくもあったから。
それでも触れる唇は、口づけに不慣れな千尋を労わるようにとても優しくて。
啄ばむように軽く何度も重なる唇に、意識が次第にうっとりと蕩けていく。

「くあ~! どうして俺の姫さんはこんなに可愛いんだ?」
「サザキ?」
突然の大声に驚き目を開けると、たくましい腕に掻き抱かれる。

「姫さん。その顔は反則だぜ」
「え? ……きゃあっ!」
肩を押されて、ぽふんとベッドに沈む身体。

「サザキ?」
「そんな顔されたら我慢できなくなるって」
「ダ、ダメッ! 今は朝だよっ?」
「可愛い姫さんが悪い」
抗議も空しく衣は解かれ。
後はただ、甘い一時に酔うだけ。
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