素敵なあなた

将望53

将臣くんは強いと思う。
一人時空の狭間で分かれ、見知らぬ土地どころか異世界に放り出されて、突然剣を向けられ追いかけられて。逃げ込んだ屋敷で清盛と相対しても怯むことなく彼らしく向き合って、そのまま招かれた平家の中で自分の居場所を見つけていった。 私が源氏の神子だってわかった時も、将臣くんは還内府であり続けた。迷わなかった訳じゃない。一度は逃げ出してもくれた。それでも最後には彼らを守り抜くことを選んで、私と剣を交わす道を選んだ。

「将臣くんってカッコいいよね」
「なんだよ、急にヨイショして。なんか頼みたいことでもあるのか?」
「違うよ。本当にそう思っただけ」

茶化すも望美がまっすぐに投げ返したからか、将臣はフッと微笑みこちらを見る。

(だから、それがカッコいいんだってば)

異世界にくる前に共に過ごしていた頃には見たことのない大人びた微笑み。こちらの気持ちなどお見通しで、しっかり受け止めてくれる度量を感じさせるその笑みは、こんなにも望美の胸を高鳴らせるのだ。

今は遠い世界では、こんなふうに将臣に対して胸を高鳴らせたことなどなく、幼馴染みとしての想いしか抱いていなかった。それが今じゃすっかり恋する乙女の自分。 結婚して共に暮らしているのに幼馴染みのままだと言われれば、将臣も当然抗議するだろうがそれに思い至れないのが望美である。好きだと求められて、肌を合わせてもいるのに、まだ恋する乙女の望美に将臣が内心で苦笑していることにも気づいていなかった。だから、ついついじっと見つめてしまったのだが、熱烈な視線を向けられて達観するほど年をくってはなく、将臣は距離を詰めると望美の髪を撫でる。

「将臣くん?」
「なあ、その台詞にその視線……誘ってるってわかってるか?」
「へ?」

やはりそんなことなど考えてもいなかった望美に苦笑するも、見逃してやる気などなく、髪を一房指に絡めるとくるくると巻いてそっと口元へ運ぶ。

「将臣くん?」

その行動を目で追っていた望美は、ちゅっと髪に口づけるのを見ると頬を赤らめて、「何するのよ」とつままれていた髪を引く。

「『ナニ』をするんだよ」
「は?」
「言っとくけど煽ったのはお前だぜ?」
「何言ってるの? 将臣くん」

相変わらず色事に疎い望美は人妻になった今も鈍く、言葉遊びの意味を解しはせずに不審げに将臣を見る。けれどもこんなことで心折れていたら彼女の夫など勤まるはずもなく、また折れるような将臣でもなかった。 だからわからなければ実力行使するまでだと口づければ、目を丸くしていた望美が頬を染めて瞼を閉じたのを見て、ゆっくりとその身を押し倒すと甘い男女の艶めいた時間へ誘う。こぼれるのが吐息から小さな喘ぎ声に、そして矯声へと変わっていくのを楽しみながら、愛しい妻を思う存分貪るのだった。


「……っ、は、将臣、くん……んっ」
「まだまだ夜は長いぜ? いっぱい楽しませてくれるんだろ? 奥さん」
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