夜の学校の屋上に立つ、人。
「……ごめんな。ずいぶん、待たせちまったみたいだな」
待ち望んでいたその姿に、しかし言葉が出てこない。
「そんなに驚くようなことか? お前が気を利かせて、白龍に帰れるよう、頼んでたんだろ」
「そ、それはそうだけど、本当に帰ってきてよかったの?」
「帰ってきてほしくなかった……なんて言うなよ」
「そんなこと言うわけないよ」
茶化すような言葉に、きゅっと唇を結ぶと将臣を見つめた。
ずっと願っていた。
もう一度将臣に会いたい、と。
「わかってるって。やるべきことはやってきた。だから、帰ってきた。それだけさ。
――お前もそうだろ?」
問うのはあの世界で二人が同じ思いを抱いていたから。
将臣は還内府として。
望美は龍神の神子として。
二人は己が成すことを、成したいと望んだことをやり遂げた。
視界が、滲む。
気づくと、望美は将臣の胸に飛び込んでいた。
「ちょ、泣くなって。ちゃんと来ただろ?
俺だって早く会いたかった……」
腕の中の存在を確かめるように抱きしめ、その涙を拭うと、ポケットから何かを手渡す。
「なに?」
促され、手を開くとそこには小さな貝。
幼い日を思い出すその貝に将臣を見上げれば、その瞳は同じものを映していた。
「お前が欲しがってた桜貝。持って来たぜ」
「……っ……」
「ただいま」
ずっと聞きたかった声。
触れたかった人。
――おかえり。ずっと待ってたんだよ。
伝えたかった言葉は、しかし嗚咽にかき消される。
さらさらとこぼれる髪を撫でながら、確かにここに――望美の隣りに帰ってきたのだと、懐かしいその髪の感触で感じる。
望美が抱く思いは、将臣の思いでもあった。
ずっと、望美のことを忘れることはなかったのだから。
「今まで、そなたの思いに気づいてやれずすまなかった。……一門への尽力、感謝に耐えぬ。
最後の息子よ」
「望美……?」
「清盛からの伝言。――将臣くんに伝えてくれって、そう頼まれてたの」
「そ、か……」
理を歪めたゆえか、清盛は将臣を将臣として映さず、ずっと息子の重盛だと思い込んでいた。
仕方がなかったとはいえ、清盛を一人置いてきたことをずっと気に病んでいたのだ。
(最後にわかってくれたのか……)
最後の息子――そう告げた清盛の想いに、目頭が熱くなる。
「……ありがとな」
「おかえり、将臣くん」
笑顔でそう告げると、ぎゅっと強く抱き寄せられる。
おかえりなさい。
誰よりも大切で――これからもずっと共に在りたい人。