あの日の約束を今ここで

将望30

夜の学校の屋上に立つ、人。

「……ごめんな。ずいぶん、待たせちまったみたいだな」
待ち望んでいたその姿に、しかし言葉が出てこない。

「そんなに驚くようなことか? お前が気を利かせて、白龍に帰れるよう、頼んでたんだろ」

「そ、それはそうだけど、本当に帰ってきてよかったの?」

「帰ってきてほしくなかった……なんて言うなよ」

「そんなこと言うわけないよ」

茶化すような言葉に、きゅっと唇を結ぶと将臣を見つめた。
ずっと願っていた。
もう一度将臣に会いたい、と。

「わかってるって。やるべきことはやってきた。だから、帰ってきた。それだけさ。
――お前もそうだろ?」

問うのはあの世界で二人が同じ思いを抱いていたから。
将臣は還内府として。
望美は龍神の神子として。
二人は己が成すことを、成したいと望んだことをやり遂げた。

視界が、滲む。
気づくと、望美は将臣の胸に飛び込んでいた。

「ちょ、泣くなって。ちゃんと来ただろ?
俺だって早く会いたかった……」
腕の中の存在を確かめるように抱きしめ、その涙を拭うと、ポケットから何かを手渡す。

「なに?」
促され、手を開くとそこには小さな貝。
幼い日を思い出すその貝に将臣を見上げれば、その瞳は同じものを映していた。

「お前が欲しがってた桜貝。持って来たぜ」
「……っ……」
「ただいま」

ずっと聞きたかった声。
触れたかった人。
――おかえり。ずっと待ってたんだよ。
伝えたかった言葉は、しかし嗚咽にかき消される。
さらさらとこぼれる髪を撫でながら、確かにここに――望美の隣りに帰ってきたのだと、懐かしいその髪の感触で感じる。
望美が抱く思いは、将臣の思いでもあった。
ずっと、望美のことを忘れることはなかったのだから。

「今まで、そなたの思いに気づいてやれずすまなかった。……一門への尽力、感謝に耐えぬ。
最後の息子よ」

「望美……?」

「清盛からの伝言。――将臣くんに伝えてくれって、そう頼まれてたの」

「そ、か……」

理を歪めたゆえか、清盛は将臣を将臣として映さず、ずっと息子の重盛だと思い込んでいた。
仕方がなかったとはいえ、清盛を一人置いてきたことをずっと気に病んでいたのだ。

(最後にわかってくれたのか……)

最後の息子――そう告げた清盛の想いに、目頭が熱くなる。

「……ありがとな」
「おかえり、将臣くん」

笑顔でそう告げると、ぎゅっと強く抱き寄せられる。
おかえりなさい。
誰よりも大切で――これからもずっと共に在りたい人。
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