約束

将望36

将臣がこちらに帰って来てからも、望美は時々共に夜の学校の屋上へあがっていた。
理由はあの世界の出来事があやふやになることの寂しさと、将臣が残してきた平家を気にかけていることを心配して。
二人で何とはなしに空を見上げて、浮かぶ満月にこういう日はよく宴を開いていたと将臣が呟く。

「平家は貴族の暮らしをしてたからか、しょっちゅう宴を開いててよ。芸事に秀でてる奴も多かったから、共に舞おうだの何か奏でられるかだの無茶ぶりするもんだから、もっぱら知盛と酒飲んでたんだよな」

「そうなんだ。敦盛さんも笛上手だったもんね」

「ああ。あいつの兄貴の経正も琵琶が得意で、よく合わせてた」

過去を語る将臣の目はここではない景色を映していて、望美はきゅっと指先で袖を握る。

「酒飲みたくなってきたな」

「先生に聞かれたら怒られるよ」

「年末年始は良かったよな。親父には驚かれたけど」

以前から家ではたまに父親の晩酌に付き合うことがあると言っていたが、さすがに将臣が異世界で酒豪になっているなど知るよしもなく、将臣の父親が驚くのは当然だった。

「飲みたければ二十歳になったら私が付き合ってあげるよ」

「なんだよ、酒に興味なかったんじゃないのか?」

「将臣くんと一緒なら飲んでみたいと思って」

酒を交わすことであの世界での将臣を理解出来るわけではないだろうけど、あの世界の大切な人達の代わりに少しでもなれたら……そんな思いから出た約束だった。

「だから約束」

「指切りかよ」

「約束って言ったら定番でしょ?」

小指を差し出す望美に笑って絡めた指先に、あの頃のような刀を握る者特有の固さはない。

「二度目だな。ここで約束するのは」

「……そうだね」

最後の戦いの前に夢で会った時に、望美は将臣と共に夜の屋上へのぼって月を見上げて、今のように約束した。
その時のことを思い出して胸がわずかに痛んだが、顔には出さずに小指を解く。
あの時は叶うかわからない約束だったから、指切りすることも出来なかった。
でも今は、自分達の思いが繋がっていれば叶うのだと知っているから。

「二十歳になったらって言ってもあと二年だろ? それならたいして……」

「ダメです。将臣くんは今は十七歳です。飲酒は二十歳になってから。あと二年半我慢だよ」

先んじて言葉を封じれば苦笑されて、分かったと頭をくしゃりと撫でられる。

「ほら、帰ろうぜ。鼻のあたま赤くなってるぞ」

「え? 本当?」

確認するように鼻に触れた望美に、将臣が笑うとその手を引いて、屋上の入口へ歩いてく。

「……ありがとな」

「まだ約束だけだよ」

「それで十分だろ。まだ俺達は未成年なんだし」

どこか空々しく感じる将臣の言葉に笑うと影が差して。
重なった唇は触れた鼻先と同様に冷たく、けれども同じことが嬉しくて笑い合った。

20181216
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