「ふぅ……」
湯船に身を浸して、望美がゆったりと息を吐く。
今日は将臣との結婚式。
八幡宮で挙式をあげることを選んだのは、2人にとって違和感ないものだった。
「みんなが駆け付けてくれて嬉しかったな」
これから人力車に乗る、というところで駆けつけてきたのは、かつての仲間達。
時空を超えて祝福に訪れてくれた仲間たちとの再会は、この上もない幸福を与えてくれた。
「もう少しゆっくり出来たらよかったんだけどね」
本当なら数日こちらに滞在して欲しかったのだが、彼らもそれぞれ支えるべきものがあり、長い時を再会に費やすことは出来ず、2人の幸せを見届けて異世界へと戻っていった。
風呂を出ると、ドライヤーで髪を乾かしリビングへ向かう。
将臣と今日から暮らしていく我が家。
今までずっと実家にいたために、こうして新たに居をもったことにわずかばかり寂しさを覚える。
ほんの少し感傷的になっていると、ソファに座っていた将臣が振り返った。
「ずいぶん長かったな。あんまり出てこないから覗きに行こうかと思ったぜ」
「そう? あれぐらいはいつもなんだけど」
「へえ。俺はカラスの行水だからな。じゃあ入ってくる」
「うん。先、ありがとうね」
ひらひらと手を振る将臣に微笑んで、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターで喉を潤すと改めて部屋を見渡す。
新しい家具で彩られた家。ここが将臣と望美の住む家。
「今日からここで将臣くんと暮らすんだよね」
今までも近しい存在だったが、寝食を共にしてはいなかった。
結婚して家族となり、共に暮らす。その日々が今日から始まるのだ。
「なにしてんだ?」
「将臣くん? もうあがったの?」
「カラスの行水だって言ったろ?」
「もう……はい」
「サンキュ」
持ってきたグラスにミネラルウォーターを注ぐと、くいっと傾いて。
嚥下する喉の喉仏に、改めて将臣が男なのだと認識する。
「不思議だね」
「なにがだ?」
「将臣くんと、こうして一緒にいること」
家が隣りということもあって、時間が合えば会っていたし、必要に応じてはすぐ会える距離にあったけれど、やはり一緒に住むのとは違っていて。
そんな望美に苦笑すると、将臣は隣りに腰を下ろした。
「おいおい、もうホームシックかよ」
「……そうかも」
「まじかよ」
「ふふ、嘘」
寂しくないわけではない。
けれど、こうして将臣と共に暮らすことは思い描いていた未来のひとつ。
「……こうしてると実感わくな。お前と結婚したんだって」
「そうだね。私もずっと感じてる」
一緒にいることが昔から当たり前だった。
その関係を変えたいと、そう2人が望み、迎えた今日。
幼馴染から恋人、そして夫婦へ。
「ふつつかものですが、これからもよろしくね」
「……ああ。飯はとりあえず交代制にするか。お前も俺も仕事があるし、何より自分の命が大事だからな」
「それ、どういう意味? お母さんと譲くんにちゃんと特訓してもらったんだからね!」
「今までの料理を思い出せば当然だろ?」
「う……」
切るまではいいのだが、どうもおおざっぱな性格が裏目に出るようで、味が濃くなってしまうことが多く、譲にも苦笑されていた。
だが望美も結婚にあたって、必死に料理を覚えたのだ。
「譲くんにはかなわないだろうけど、将臣くんには負けないんだから」
「じゃあ、明日から早速勝負といくか」
「望むところだよ」
なぜだか料理対決の様相になり、2人顔を見合わせ笑い合う。
いつだって、将臣といると気持ちが楽になる。
それは幼馴染として過ごしてきた時間でもあるだろうが、将臣の気質によるものが大きいだろう。
「そういえば大丈夫なの? ずいぶん飲まされてたけど」
「あれぐらいどうってことねえよ」
祝いと称して次から次へと注がれ、その度に盃をあけていた将臣。
「けど、あいつは本気で俺を酔いつぶすつもりだったんだろう」
「ヒノエくん? そういえばやけにお酒勧めてたよね?」
「今夜を邪魔したかったんだろ」
「今夜?」
首を傾げる望美に苦笑すると、耳元で囁く。
「新婚初夜っていえばハネムーン……蜜月だろ?」
「!」
顔を赤らめ、身を強張らせた望美に笑いながら、そっとその肩を抱く。
「ここにきておあずけはなしだぜ? なあ、花嫁さん?」