兄弟喧嘩

将望4

「望美、映画に行こうぜ」
「先輩、今日はピクニックの予定でしたよね?」
将臣が誘う横で、譲がお弁当が入ったカゴを掲げて微笑む。

「えっと……将臣くんもピクニック一緒に行かない?」
「俺は映画が観たい」
「兄さんの分はないのでご安心を」
頑として譲らない将臣に、譲がにこりと応酬。
そんな二人の間で、望美は一人悩む。

観たいと思う映画もあるし、ノリが似ている将臣は映画を観るにはベストの相手。
しかし、料理上手な譲のお弁当はいつも望美を大満足させてくれ、なおかつぽかぽかと日差しも気持ち良くピクニック日和。
将臣も大好きで、譲も大好き。
望美は以前のように3人で行動したいのだが、必ずどちらかが欠けてしまうのが現在の状態。
今も将臣は映画じゃなければ行く気がないようだし、譲もせっかく作ったお弁当を無駄にする気はないようだ。
困り果てて上目遣いに譲を見れば、困った笑顔が返ってくる。

「……兄さん、先輩が困ってるようだし、今日は俺達と一緒に公園に行きませんか?」

「あ? なんでそんなじじむさいことしなきゃなんないんだよ。それなら俺は帰って寝る」

提案を退け背を向ける将臣に、譲がため息を漏らす。

「……先輩。今日は俺と一緒に出かけましょう?」

「じゃあ! ピクニック行ってお弁当食べたら、その後映画に行くのはどう!?」

譲の言葉を遮り、遠ざかろうとしている将臣に叫ぶ。

「いいぜ。それなら弁当にも付き合ってやるよ」
「俺は映画には行きませんからね」
にやりと笑う将臣に、譲が眼鏡を直しながら拒否する。

「どうして? 何か用事があるの?」

「今日は6時に部活の先輩達と約束があるんです。ですから、昼間ならこうしてピクニックにも付き合えるんですけどね」

「そっか……」

「じゃあ、俺が望美と2人で行ってくるぜ?」

残念そうな望美の肩を引き寄せ、将臣がにやりと口の端をあげる。
挑発的なその行動にむっと眉を上げると、譲は背を向けてさっさと歩き出す。

「あ、待って、譲くん!」

「……兄さんの分はコンビニででも買ってきてくださいね」

「あ? 誘っておきながら俺の分はないのかよ?」

「兄さんは途中参加でしょ?」

「私の分けるからいいよ! ね? 譲くん。
いいでしょ?」

険悪なムードになりそうな2人の間に割って入る望美に、譲がため息を漏らす。
せっかく今日は望美と2人きりで出かけられると思っていたのに、いつも必ず最後はかっさらっていく兄が憎らしくて仕方ない。
将臣を庇う望美に、譲は諦めて口を開く。

「……多少量が少なくなるけど文句ないですね?」
「俺、すっげー食うぜ?」
逆なでするかのような将臣の返事に、しかしまたも望美が庇う姿は見たくないので、ぐっと堪える。

「足りない分は自分で補充してください」
「結局買い出し必要なんじゃんか」
ぶつくさ愚痴をこぼす将臣に、譲はひそかにこぶしを握り締めた。
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