一緒にいたいの

将望3

「お? それ、梅酒か?」
つまみ食いをしに現れた将臣が、キッチンの隅に置かれた壷を指差して問う。

「ああ。庭の梅の実をつけて作ったんだ。そろそろいいと思うけど」
「いいね~!」
譲の了解を得るが、将臣はグラスに並々と注ぐ。

「ちょ……兄さん! 少しは薄めないと……」
「大丈夫大丈夫。たかだか梅酒ぐらいで酔いやしねーよ」
掌を振って譲の注意を無視する将臣に、譲はため息をつきながら自分の分を炭酸で割る。

「あ~暑かったー」
「先輩! どうしたんですか?」
「ん~、ちょっと出かけて帰って来たら、お母さんも出かけちゃったみたいで家に入れなくて」

突然現れた望美に譲が驚くが、知った仲で有川家を第二の我が家としている望美は、ぱたぱたと熱を冷まそうと掌で扇ぐ。

「今日は暑さが厳しいですからね。何か飲みますか?」
「うん! あ、これちょっともらっていい?」

暑さに喉がからからだった望美は、譲が作った梅酒ソーダ割りへと手を伸ばして、一気にあおった。

「あ、先輩……! それは……ッ」
「ん~? 何かこれ、甘くて美味しいね~」
にっこり微笑むと、譲におかわりを要求する。

「これ、梅酒なんですよ? まぁ、先輩が飲んだのはかなり薄めてありますけど……」

「梅酒? お酒なの? 譲くんと将臣くん、昼間っからお酒飲んでたの? いっけないんだ~」

「ば~か。こんなの酒のうちにもはいらねーよ。酔うのはねんねのお前ぐらいのもんだ」

「ねんねって何よ! 自分だって同い年じゃない!」

「俺はお前とは違うんだよ」

得意げな将臣に、望美はむっと顔を膨らませると、手に持っていたグラスを奪い取る。

「あ、おい……!」
「ぷは~! ほら、全然大丈、ぶ?」

ストレートを一気にあおった望美の身体が、ぐらりと傾ぐ。
慌てて腕を伸ばした将臣が、床に後頭部を強打しそうになった望美を、ぎりぎり抱きかかえるような形で受け止めた。

「ありがと~将臣くん」
「あっぶねーな。お前、もろぶっ倒れたぞ」
「んふふ~。梅酒って美味しいね~」

暑さで頬を赤らめていた時とは明らかに違う、瞳を細めて妖しく笑う望美に、将臣と譲がため息をつく。

「先輩、酔ってますね?」

「梅酒2杯ぐらいで酔うのか!?」

「ん~? そう! まだ2杯しか飲んでな~い! 譲くん、おかわり~!」

「先輩、もう止めておいた方がいいですよ」

「やだ~! もっと飲みたい~!」

子供のように駄々をこねる望美に、譲がため息をつく。

「兄さんのせいだぞ」

「俺のせいかよ? こいつが勝手に飲んだんだぜ」

「また喧嘩して~! 兄弟は仲良くしなさ~い!!」

「誰のせいだよ……」

将臣もため息をつくと、腕の中でけたけた笑う望美を見つめる。

「お前はやめとけ。おばさんに怒られるぞ?」

「そんなこといって将臣くんが全部独り占めしようとしてるんでしょ~? ずるい~!」

「誰が独り占めすんだよ……ったく。譲、水」

「やだ~! 梅酒がいい~!!」

まるで子供のような望美に、将臣と譲が揃ってため息をつく。
そうして渋々梅酒を渡すと、にっこり微笑んで一気に飲み干した。

「おいっ! もっとゆっくり飲めよ」
「んふ~。だって美味しいんだも~ん」
熱に浮かされたような潤んだ瞳で見つめられ、将臣がぐっと黙り込む。

「んふふ~、将臣くん大好きだよ~」
望美を抱きかかえたままの将臣を振り返ると、首に腕を絡めてキスをする。

「……!」
「せ、先輩!」
「譲くんも好き~」
ふらふら~と立ち上がると、今度は譲にキスする望美。

「…………!!」
「んふふ、二人とも大好き~」
顔を真っ赤に染めて絶句する譲に、ふらふらと危なっかしい望美を将臣が支える。

「私ね~、将臣くんと譲くんが大好きなの~。
なのに最近、全然構ってくれないんだもん」
「あ~……それは付き合いとか」
「私とは付き合えないわけ~?」
もごもごと言い訳する将臣に、望美がむっと見上げる。

「もっと昔みたいに遊びたいな~。将臣くんと譲くんと三人でさ」

幼い頃は、毎日のように一緒に遊んでいた三人だったが、中学生頃からは共に過ごす時間が少なくなり、今ではたまに将臣や譲と会えても三人揃うことはなかった。

「私ね、三人でいるととっても楽しいの。だからもっと、将臣くんと譲くんと一緒にいたい……」

酔った望美は普段思いながらも全部は口に出来ずにいる想いを、素直に吐露する。
そんな望美に、将臣と譲が困ったように視線を合わせた。

「悪かったよ……もう少し時間作るよ」
「俺も……部活以外の時間はあわせられますよ?」
将臣と譲の言葉に、望美がぱあっと顔を輝かす。

「ありがとう! 将臣くん譲くん大好き~!!」
「だから! キスすんじゃね~!!」
再度口づける望美に、二人があたふたと抗議する。
これ以降、有川家の梅酒は望美の目の届かない、倉の奥深くにしまわれるのであった。
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