「ねえねえ、将臣くん、譲くん! ここに行きたい!!」
望美が持ってきた雑誌に載っているのは、巨大スパ施設。
水着着用で男女混浴できる人気の施設だった。
「せ、先輩……!」
「……お前な~。こういうとこは友達と行くか、彼氏といけよ」
「私は将臣くんと譲くんと三人でいきたいの!」
相変わらず昔のようにどこでも三人で行きたがる望美に、譲は顔を赤らめ、将臣が大きなため息をつく。
「先輩すみません。大会が近いんで休みも練習があるんです」
「そっか~。将臣くんは?」
話を振られ、断りの言葉を考えてる間に暇なことを悟られ、望美がにっこり微笑む。
「将臣くんは大丈夫なんだね? じゃあ一緒に行こうね!」
満面の笑みで嬉しそうに言われ、将臣が力なくうなだれる。
背中には、譲の抗議の視線。
(俺だって行きたくて行くわけじゃねーんだよ。生殺しだぜ……)
幼い頃と違い、すっかり女らしい丸みをおびた初恋の少女を、しかも水着姿の望美を前にして何も出来ないのだ。
他の男に見せるのも癪だし、かといって知らないところでナンパでもされようものなら余計にむかつく。
頭の中で散々逡巡し、将臣は渋々頷いた。
「わかったよ。お前、スクール水着とか持ってくるなよ?」
「馬鹿にしないでよ! ちゃんと可愛い水着、夏に買ったんだもんね~!」
夏休みはスキンダイビングとバイトに明け暮れ、望美とプールにも出かけていなかったので、ほ~と内心歓喜の声を上げる。
「望美の水着写真、土産にしてやるからな」
「に、兄さん!」
抗議の眼差しを向ける譲を茶化すと、顔を真っ赤にして黙る譲に、望美は「どうして私の水着写真が土産になるの?」と小首を傾げた。
当日。
バイクでスパ施設へと着いた二人は、入り口で分かれると、混浴温泉の前で待ち合わせた。
着替えるのは当然男の方が早いわけで、必然将臣が待つ羽目に。
「お待たせ!」
早足でやってきた望美に、思わず見惚れてしまう。
望美が着ていたのは、胸元にフリルがついた白いワンピースタイプの水着。
可愛らしいものが好きな、望美らしい水着だった。
確かにスタイルの良い望美に、白はばっちり似合っているのだが。
(なんか……見えそうで見えないのが……妙にエロい……)
胸には当然パットがあるので透けるようなこともないのだが、下はあらぬ想像を掻き立てられる。
「将臣くん? どうしたの?」
望美の声で、ハッと我に返る。
「似合わないかな?」
将臣の沈黙を誤解した望美がしゅんとうなだれたのに、がしがしと頭を乱暴に撫でる。
「そんなことねーよ。似合う似合う」
「また! 髪ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃない!」
「どうせ濡れるだろ? 問題ねーべ」
「もう!」
ふてくされる望美をうながし、混浴温泉へ向かうと、一転大はしゃぎであちこち連れまわされる。
「こっちはラベンダーだよ! いい香りがするね!」
「はいはい」
入るとすぐに次の場所へと連れて行かれるので、将臣はちょっと疲れ気味だった。
「ちょっとあそこで休もうぜ」
将臣が指差したのは外温泉。
一応ほとんどのお湯を巡った望美は素直に従った。
「はあ~」
「気持ちいいね!」
ようやく一息つけて安堵する将臣に、望美がにこにこ嬉しそうに話しかける。
ちらりと見ると、自分の記憶よりもずっとふくよかに成長した望美の胸。
赤らむ顔を湯当たりのせいにして、ふいっと顔をそむける。
そんな将臣に、望美が両手で顔を挟むとぐいっと自分に向き直らせた。
「お、おい」
「なんか今日、顔そらしてない?」
突っ込まれて、将臣がう……っと言葉に詰まる。
「私とじゃつまらない?」
勘違いして顔を曇らせる望美に、慌てて取り繕う。
「ちげーよ。お前の胸があんまり大きくなったもんだから、ちょっと目のやり場に困ってただけだ」
「え? ……将臣くんのエッチ!」
「わっ! お湯かけるな!!」
顔を赤らめてお湯を手ですくってかける望美に、将臣が応戦する。
今はまだ、これでいい。
お前が笑っていてくれるなら。
だけど、いつか。
遠い未来ではこうしてお前に寄り添っているのが俺だけならば―――。