無邪気な君

将望1

「将臣くん、行こう!」
手を握り、無邪気に微笑む望美に、将臣は複雑な笑みを浮かべる。
将臣と望美は、家が隣ということもあり、幼少の頃から今までずっと共に過ごしてきた幼馴染。
だが遊び友達から気になる女の子へと、いつの間にか想いは変化していた。
それでも将臣が女として意識するようになってからも、望美の態度はずっと昔と変わらぬままだった。
その幼さが可愛らしくもあり、切なくもあった。

(まったく……無邪気に手なんか繋ぎやがって。俺がどんなことを考えてるか、知ったら腰抜かすぞ)

胸の中で一人愚痴るが、望美は全く気づかない。
望美と手が触れただけで、身体が熱くなっていく。
抱き寄せてその唇を奪い、息もつけぬほど口づけて、その身体を思うままに蹂躙したい。
そんな想いが身体中を駆け抜けていく。

それほど、将臣は望美を求めていた。
それを望美に強要しないのは、誰よりも大切だったからだ。
だから、彼女が怯えるような、無理を強いることは出来なかった。

(こいつは俺のこと、“隣の将臣くん”としか思ってねえのかな?)

その可能性が大であることは確実で、将臣は己の想いを持て余していた。

「どうしたの? 難しい顔してるよ」
振り返って覗き込む望美に、将臣は乱暴にその頭をかき撫でる。

「ちょ……っ! せっかく綺麗にセットしてきたのに、ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃない!!」

「大丈夫だよ。お前はそんなことしなくたって、十分可愛いんだよ」

「もう……!」

冗談めかした将臣の言葉に、望美は本気にせずに、むっと手櫛で髪を整えた。

「機嫌直せよ。今日はお前の観たがった映画に付き合ってやるんだぜ?」

「じゃあ、今日の映画は将臣くんのおごりね」

「げ! 俺にたかるなよ……」

沖縄の海に潜ろうと、ひそかにお金を貯めていた将臣が、大きくため息をつく。

(ま、今はまだこのままでもいっか)
半分諦めのような気持ちで、目の前で無邪気に微笑む望美に負ける、将臣だった。
Index ←Back Next→