「将臣くん、行こう!」
手を握り、無邪気に微笑む望美に、将臣は複雑な笑みを浮かべる。
将臣と望美は、家が隣ということもあり、幼少の頃から今までずっと共に過ごしてきた幼馴染。
だが遊び友達から気になる女の子へと、いつの間にか想いは変化していた。
それでも将臣が女として意識するようになってからも、望美の態度はずっと昔と変わらぬままだった。
その幼さが可愛らしくもあり、切なくもあった。
(まったく……無邪気に手なんか繋ぎやがって。俺がどんなことを考えてるか、知ったら腰抜かすぞ)
胸の中で一人愚痴るが、望美は全く気づかない。
望美と手が触れただけで、身体が熱くなっていく。
抱き寄せてその唇を奪い、息もつけぬほど口づけて、その身体を思うままに蹂躙したい。
そんな想いが身体中を駆け抜けていく。
それほど、将臣は望美を求めていた。
それを望美に強要しないのは、誰よりも大切だったからだ。
だから、彼女が怯えるような、無理を強いることは出来なかった。
(こいつは俺のこと、“隣の将臣くん”としか思ってねえのかな?)
その可能性が大であることは確実で、将臣は己の想いを持て余していた。
「どうしたの? 難しい顔してるよ」
振り返って覗き込む望美に、将臣は乱暴にその頭をかき撫でる。
「ちょ……っ! せっかく綺麗にセットしてきたのに、ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃない!!」
「大丈夫だよ。お前はそんなことしなくたって、十分可愛いんだよ」
「もう……!」
冗談めかした将臣の言葉に、望美は本気にせずに、むっと手櫛で髪を整えた。
「機嫌直せよ。今日はお前の観たがった映画に付き合ってやるんだぜ?」
「じゃあ、今日の映画は将臣くんのおごりね」
「げ! 俺にたかるなよ……」
沖縄の海に潜ろうと、ひそかにお金を貯めていた将臣が、大きくため息をつく。
(ま、今はまだこのままでもいっか)
半分諦めのような気持ちで、目の前で無邪気に微笑む望美に負ける、将臣だった。