恋の芽生え-5-

将望39

左薬指に輝く銀の指輪を見つめて、微笑みをこぼす。
それは先日、将臣から贈られたものだった。
意識しつつも無自覚だった望美は、高校3年の秋・ようやく将臣を好きだと自覚した。
だが不器用な望美に恋と勉強の両立は無理だったので、恋心を一時封じて合格後の告白を励みに必死に勉強をし、その甲斐あって合格を果たした。

しかし卒業・入学と慌しい毎日にすっかり告白の機会を失ってしまい、すれ違ってばかりの日々に困惑していた時の、将臣からの突然の誘い。
望美も将臣に会いたかったから、大喜びでバイクの後ろに乗った。
連れられていったのは馴染みの七里ヶ浜で、そこで指輪と共に将臣の想いを知った。
初めての恋に自分の気持ちだけで手一杯だった望美は、将臣も自分のことを想っていてくれた事に驚いた。
だけど――。

「私が伝えるから待ってって言ったのに」

髪をセットしながら頬を膨らます。
高校3年の夏休み前、急に将臣を意識しだしてしまい(その時は気づかなかったのだが)、顔が赤くなることに困っていた時、どうしてそうなるのか考えるように将臣に言われた望美。
しかし恋を知らなかった望美はなかなか理由が分からず、友人に相談して初めて自分が恋をしていることを知った。
始めは戸惑って否定しようとしたけれど、逆に今までどれほど将臣に守られているかが思い出され、恋心は花開いた。

「確かに半年以上待たせた私も悪いけど」

――でもそれは、ただタイミングがなかったからだもん。
心の中で言い訳し、リップをひく。
鏡の中の自分をチェックして頷く。
今日こそは自分からきちんと思いを伝える、と――。

将臣の提案で、今日は遊園地に行くことになった。
いつもは海や映画が多かったので、望美は頭を傾げながらもOK。
連休開けの休日だったからか思ったよりも空いており、望美は当初の目的も忘れ、次々と乗り物に乗ってははしゃいでいた。
そんな望美に苦笑しながら、将臣が付き合う。
将臣が今日のデート先に遊園地を選んだのには理由があった。
それは4日前。
久しぶりに望美の部屋を訪れた将臣は、望美がお茶の用意をしに1階へ降りていった時に、机の上に置かれた日記帳を見つけた。
望美がどんなことを書いているのか興味がわいてつい覗き見ると、ある書き込みに目が留まる。

【ドラマで観覧車の中でキスシーン。こんなファーストキスなんて素敵かも!】

階段を上ってくる足音に気づき、慌てて日記を元に戻すと、平然を装い望美に話を振る。

『なぁ、今度の日曜日遊園地いかねーか?』
『え? いいけど……将臣くんが遊園地に行きたがるなんて珍しいね』
『まあ、たまにはな』

よもや1年前の日記の書き込みを読まれ、それを将臣が実行しようとしているとは露ほども思っていない望美は、不思議そうに見つめつつ大喜びで頷いた。

* *

遊園地の乗り物をほぼ全制覇した頃には日が沈み、星が煌き始めていた。

「最後にアレに乗ろうぜ」
将臣が指差した先には観覧車。

「うん! 観覧車はやっぱり最後のお楽しみだよね」
にこにこと嬉しそうに笑う望美に苦笑しながら乗り込む。

「うわ~! すごい高くまで来たよ!」

子供のように目を輝かせて外を見つめる望美に、そっと身を乗り出す。
振り返った望美に不意打ちのキス。
お互い想いを通わせあいながらも、いまだ幼馴染と恋人の中間のような関係を保っていた2人は、それは初めてのキスだった。
瞳を見開き驚いていた望美は、ぼっと顔を赤らめ慌てる。

「ふ、不意打ちなんてずるいよ!」
「嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけど……」
口ごもる望美に、ふっと口元を緩ます。

「で、感想は?」
「か、感想って、突然すぎてわかんないよ!」
「じゃあもう1回」
再び唇を重ねると、かすかに震えが伝わってくる。
その反応に、望美がキスをすることが初めてだと分かって胸がいっぱいになる。
柔らかな感触に貪りつきたくなる衝動を堪え離れると、熱く潤んだ瞳を捕らえる。

「望美……す」
「だめ!!」
好きだと言おうとして、突然口をふさがれ、将臣が眉をしかめる。

「お前なぁ……」
「今日は私が言う番だから、将臣くんは言っちゃだめなの!」

ムードを壊されムッとした将臣は、思いがけない言葉にきょとんとする。
そんな将臣に、意を決して望美が想いを伝える。

「私……将臣くんが好きだよ」
「望美?」
「本当はもっと早くに伝えなきゃいけなかったのに、ずっと待たせてごめんね」

返事を裂き延ばしてから、半年以上待たせてしまったことを謝罪する。
そんな望美に、将臣は腕を捕らえて引き寄せると、胸に閉じ込める。

「どっちが不意打ちだよ……まったく」
「将臣くん?」
「もう一度言ってくれないか? 夢じゃないって確かめさせてくれ」

将臣の願いに、望美は背中を抱きしめながら繰り返した。

「大好きだよ、将臣くん。幼馴染だからじゃなくて、将臣くんが好きだよ」

18年間待ち焦がれた望美からの告白に、将臣の胸が喜びに打ち震える。

「俺もお前が好きだ……これからもずっと一緒にいよう、な」
望美の髪に顔を埋めた将臣の呟きに、望美も幸福な微笑みを浮かべて頷いた。
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