「将臣くーん!」
遠くから聞こえてきた愛しい少女の呼び声に、将臣は鍬を置くと汗を拭い振り返った。
紫苑の髪を揺らしながら駆け寄った望美は、にっこりと微笑み包みを掲げる。
「お疲れ様! お弁当持って来たよ。休憩にしない?」
「ああ」
共に畑を耕していた仲間に声をかけると、道の傍の手近な石に腰かける。
「はい」
「サンキュー」
手渡された竹筒の水を飲みながら、ふと望美の指先に巻かれた布に気づく。
「指、どうした?」
「え? あ~……ちょっと包丁で、ね」
料理が苦手な望美は、この島にやってきてからずっと平家の女房に料理を教えてもらっていた。
「焦ることはないんだ。のんびりやれよ?」
「うん。でも早く将臣くんにちゃんとした手料理、食べて欲しいもん」
望美が料理が出来ないことと、新しい土地という不安もあり、二人はいまだに安徳帝と食事を共にしていた。
「弁慶からもらった薬、どこしまったっけな?」
「ひど~い!」
この世界に来る前の料理の腕前を知っている将臣が茶化すと、望美が頬を膨らませ拗ねる。
「絶対ぜ~ったい将臣くんに美味しいって言われるようになってやるんだからっ!」
高らかに宣言する望美に、将臣がくっくと肩を揺らしながら、宥めるようにその頭を撫でる。
「ああ。期待しないで待ってるぜ」
「~~~将臣くんのバカーっ!!」
「ぐぁ……っ!」
肘鉄を食らって呻く将臣に、あかんべえをして望美が笑う。
「――将臣くん!」
呼びかけに腹を擦りながら振り返ると、少し離れたところで笑う望美の眩い笑顔が目に飛び込む。
「大好きだよーっ!!」
とびきりの笑顔で告げる望美に、将臣が眉を下げて応える。
「ああ――俺も愛してるぜ」
今も昔も遠い未来も……ずっとお前を愛してる。