「望美、将臣、譲……本当に世話になったな」
「そりゃこっちのセリフだろ。ありがとな。お前らがいて、楽しかったぜ」
「名残は尽きないけれど……いつまでもこうしているわけにもいきませんね」
弁慶の言葉にリズヴァーンが同意すると、白龍がみんなの視線を受けて時空の狭間を開く。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「先輩、気を付けて」
「本当に大丈夫か?」
「うん」
有川兄弟に頷くと、傍らの景時を見上げて微笑む。
茶吉尼天を倒し迷宮は消え、龍脈は戻った。
今日は異世界の仲間たちが自分たちの世界に帰る日。
昨日、別れを決意していた景時を止め、心を変えさせた望美は、彼のけじめを見守るために再度異世界に行くことにした。
「望美ちゃんは必ず無事に戻すから、二人とも安心して」
「お前も、だろ?」
「……うん」
将臣の訂正に苦笑すると、袖をつまむ望美に頷き彼らを見る。
穏やかで、優しい時間。
今日で終わるはずだったそれらは、望美によって未来に繋がれた。
だからこそ、景時もまた決断した。
二人、共にある未来のために。
二人で幸せになるために。
「でも、本当に大丈夫なのかよ。あの頼朝が簡単に暇をくれるとは思えないんだけど」
「ヒノエ。望美さんを不安にさせるようなことを言うのはやめなさい」
「……景時。本当にいいんだな?」
「……ああ」
頼朝を恐れる心とは別に、彼を慕う心もまた景時にはある。
だからこそ恐れながらもずっと仕えてきた。
政子……茶吉尼天から家族を守るためという理由もあったが、何より景時自身頼朝を己の主と心に定めていたのだ。
けれど。
「行きましょう、景時さん」
景時の手をしっかり繋いで、光の中へと導いてくれる手。
彼女と共に歩くことなど許されないと、それだけのことをしてきた景時を、それでも共に在りたいと、抱きしめてくれた手。
その手をしっかり握りしめて、偽りない微笑みを彼女に贈る。
夢を夢で終わらせないために。
彼女と共に在り続けるために。
「うん、行こうか」
指を絡めてしっかりと握ると、光の中へと身を投じる。
今一度、あの世界へ。
未来をつかむ、そのために――。
* *
「……時さ……景時さん」
「……ん……望美ちゃん?」
柔らかな声に目を開けると、愛しい少女の微笑みが映る。
「ここ……」
辺りを見渡すと柔らかな草が目に入り、眠る前のことが思い出された。
「俺、眠っちゃってたんだね。ごめん、望美ちゃん。足、痛かったでしょ?」
「そんなことありませんよ。ほんの少しでしたし」
望美と公園に来てお弁当を食べて、ほんの少し微睡むつもりがいつの間にか眠ってしまったらしい。
景時が身を起こすと、望美がポットからお茶を注いでくれる。
「昨日も遅かったんですか?」
「うん、締切が近かったからちょっとね」
「今日のために無理したんじゃ……」
「そんなことないよ。元々書かなきゃいけなかったんだ」
申し訳なさそうに顔を曇らせる望美に微笑んで、ありがとうとお茶を受け取る。
この穏やかな時間を彼女と過ごすためなら、多少の無理は何でもない。
何より、景時自身が望んでいるのだから。
「……懐かしい夢を見たよ」
「どんな夢ですか?」
きょとんと小首を傾げる望美に、そっと耳打ちをする。
二人の未来が花開いた日のことを。