笑顔の裏の嘆き

景望6

「景時さん!」
走り寄ってきた望美に、景時が笑顔で振り返る。

「ん~? どうしたの?」
「景時さん、今日がお誕生日なんですよね?」
「誕生日?」

京では生まれた日ではなく、正月がくると皆同じように1つ歳をとるので、個人的に祝う習慣はなく、景時は不思議そうな顔をする。

「あ、誕生日っていうのは生まれた日の事で……」
「あ~うん、それなら今日だね」

納得して頷くと、望美が服のポケットをごそごそ探る。
そして差し出された掌には、一つの飴玉。

「本当はもっとちゃんとした物をあげたいんですけど、私こっちのお金持ってないし、人から借りてじゃ意味ないので……これ、私のいた世界のお菓子で飴っていうんです」

望美から受け取ると、それは今まで見たことのない物だった。

「お菓子ってことは食べ物なんだよね?」
「はい! 甘くて美味しいんですよ。景時さん、甘い物嫌いじゃないですよね?」

特に好んで食べるわけでもないが、甘いものは別段嫌いでもなかった。
なのでこくんと頷く。

「じゃあ、舐めてみてください!」
「な……める?」

京の菓子は砂糖で出来た柔らかいものがほとんどで、飴のような固い食べ物はないので、望美の言葉にぎょっとする。
だが目を輝かせて口に入れるのを待っている望美に、景時はおずおずと包みを破くと、中身を取り出した。
太陽にかざすとそれはまるで宝石のような輝きを放ち、景時は見惚れてしまう。

「綺麗だね~。なんか食べるのがもったいないなぁ」
「でも、夏になると暑さで溶けちゃいますよ?」

望美の言葉に、後ろ髪ひかれつつも口に放る。
石のように固い、だけど砂糖とも違う不思議な甘みが口いっぱいに広がる。

「本当に固いんだね~。石みたいなのに甘いなんて面白いよ。ありがとうね、望美ちゃん」

「夜は譲くんと朔がご馳走用意してくれますから、みんなでお祝いしましょうね!」

嬉しそうに笑う望美に、景時の心が温かくなる。

(一番の贈り物は、君のその笑顔だよ)

血生臭い戦の中で、清浄なる輝きを放つ望美。
神子だからというだけでなく、望美の人柄が皆に温かさを与えてくれていることを景時は知っていた。 柔らかな光で優しく照らす望月のような少女。
いつも背に銃を隠しながら、笑顔の仮面をかぶって仲間と接している自分には、眩しすぎる存在だった。
純粋に信頼を寄せてくれている望美に、いつかきっと仇なしてしまうであろう自分。
こんな自分が彼女を愛しく想うことなど許されようもない。
だがどうしようもなく惹かれてしまう気持ちを、景時は切ない痛みと共に笑顔の裏に隠した。
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