敗北!兄馬鹿

景望4

「朔、お前は下がっていなさい。兵たちにはお前を傷つけないよう命じてある」

「兄上……私……」

「朔」

「そんな……私、私……どうしたら……望美……」

突然の兄の裏切り。
仲間であるはずの九郎に銃を向けた兄と、顔を強張らせた望美たちに、板挟みになった朔は俯いた。

「朔、こっちへ来るんだ。お前は源氏へ残れ」

「朔、時間がない。選びなさい。辛くとも選ばなくてはならない」

「でもっ、リズ先生……兄上と……あの子のどちらかを選ぶなんて……私……」

決断を促すリズヴァーンと景時に、朔の心が引き裂かれる。
そこに自分を求める対の少女の声が耳に届いた。

「――望美……私は……!」
迷いを振り切った朔が、一度も振り返らずに望美たちの船へと駆け出していく。

「さ、朔ぅ~……」
「何をしておられます! 梶原殿!!」
焦る御家人衆に、しかし景時はそれどころではなく。

「朔が……朔が俺よりも……実の兄である俺よりも望美ちゃんを……」
ショックを受ける景時に、さらにとどめを刺す妹の声。

「私、あなたと戦いたくないの」
「……俺とはいいのかい?」

景時の問いは、しかし空しく波間に消えていく。
轟々と燃え上がる嫉妬の炎。
これによって景時は執拗に望美たちを追いかけたとか。
兄馬鹿の嫉妬を受けた哀れな望美の身は如何に……。
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