進め!兄馬鹿

景望2

「いたか?」
「いや、見つからん」

きょろきょろと辺りを見渡す源氏の武士に、望美と敦盛は息を潜め、庭木の陰に身を隠していた。 藍の衣を上にかけ、宵闇の中で息を潜めながら、望美は安心させるように敦盛に囁く。

「しーっ、静かに。大丈夫です、私が守りますから」

望美の言葉に敦盛が瞠目すると、源氏の武士が二人の間近にやってきた。
見つかる!
二人がそう、身をすくめたその時。

「おいっ、そっちはまずい。そのあたりは梶原様の妹姫の御座所だ。あんまりうろついていると、梶原様がうるさいぞ」

「しょうがない、一旦引き上げるか」

急に源氏の武士が声を強張らせ、慌てて外へと去っていった。

「まずいってなんでだろ?」
そろっと庭木の陰から出た望美は、ひぃっ! と引きつった悲鳴を漏らし、その場に固まった。

「どうし……」

望美の様子に、不思議そうに彼女の足元を見た敦盛は、同じくピキリとその場に固まる。
そこにいたのは、いつぞや見たサンショウウオ。
それが1匹ではなく、あたり一面を覆うように、うようよと蠢いているのである。
夜更けの京邸に、望美の絶叫が響き渡ったのは、言うまでもない。

《源氏軍の極秘最重要注意事項》
梶原様の妹姫には手を出すべからず。
大量のサンショウウオに襲われるゆえ……と。
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