揺らぐ明日を照らす光

九望7

九郎は落ち込んでいた。
それは夢の世界に捕らわれていたことに気づけなかった己の不甲斐なさ。
願望を映し出す甘美な夢幻に捕らわれ、危うく望美をも危険に晒すところだったのである。

「あの時先生が来てくださらなかったら、俺は望美まで夢に捕らえさせてしまっていた……」

尊敬する兄に認められ、許婚の望美と共に暮らすという、心の奥底の願望。
自分が兄・頼朝に己が想っているほどに想われていないことも、いつでも自分を処断できるよう監視していることも、本当は分かっていた。
それでも、兄の治世を共に築くという夢は、兄と自分の二人の夢であると思いたかったのだ。

「俺は……どうすればいいんだ」
生じた迷いが、歩みを惑わせる。
曇りなく兄のためにと戦場に赴いていた気持ちが揺らぐ。

「俺は……」
くっと眉を寄せて俯く九郎に、明るい声が聞こえてくる。
顔を上げると、望美が走ってくるのが目に入った。

「九郎さん! ……どうしたんですか?」
「いや……なんでもない」

九郎を見るや気遣う望美に、逃れるように視線をはずす。
と、突然眉間に指を立てられ、ぐりぐりとほぐされる。

「な……っ!」
「だめですよ」
望美の思いがけない行動に怒りを表す九郎に、真剣な顔を向ける。

「眉間にそんなシワ寄せてると、いいこと考えられなくなっちゃいますよ。――ちゃんと目覚められたんだから、それでいいじゃないですか」

「だが……!」

九郎の悩みが何であるか分かった望美は、にこりと微笑む。

「九郎さんは九郎さんの望むどおりに進めばいいんですよ。お兄さんがどう思っているのかとか、そんなことどうでもいいんです。
だって九郎さんはお兄さんのために頑張りたいんでしょう?」

霧の中に差し込む光に、九郎は瞳を見開いた。
自分の望みは兄と共に在ること。
それを叶えるために、今は突き進んでいるのだ。

「……そうだったな。礼を言う、ありがとう望美」
「お礼なんていりませんよ」
笑いながら手を差し出す。

「みんなが待ってますよ。行きましょう、九郎さん!」
「ああ、行こう」

眩しさに瞳を細めながら、その手を取る。
たとえ明日に迷おうとも、この光があれば進んでいける。
この先の未来に何があろうとも、この手だけは離したくない。
その想いの名に気づかぬまま、九郎は望美と共に歩いて行った。
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