「九郎さんが私のことを好きになってくれたのっていつですか?」
望美の唐突な問いに、九郎は飲んでいたお茶を噴き出した。
「汚いな~、もぅ。はい」
「お前はどうしてそう唐突なんだっ!」
「で? どうなんですか?」
眉をしかめる九郎に、望美は悪びれずに問いを繰り返す。
「そ、そんなのわかるかっ!」
「えぇ~?」
真っ赤な顔をそらしての九郎の答えに、望美が不満そうに頬を膨らませた。
「そ、そういうお前はどうなんだ?」
「へ?」
「だから……お前はいつから俺のことがす、好きだったんだ?」
逆に問われて、慌てる望美。
「ず、ずるいですよ! 私が九郎さんに聞いたんじゃないですか!?」
「自分が答えられんような問いに、俺が答えられるわけがないだろう!」
九郎の言い分ももっともで、望美はふいっと顔をそらせると、揃えた足の膝に顎をのせた。
望美が九郎を好きだと自覚したのは、九郎が鎌倉を案内してくれると誘ってくれた時。
頼朝の妻・政子の用事で突然約束が反故になってしまい、九郎伝言を頼まれた行商のおばさんの勘違いがきっかけだった。
「でも好きになったのは、たぶんずっと前だったんだろうな」
口下手な九郎と些細なことで言い合ってばかりいた望美。
だけど、まっすぐで誰よりも優しい九郎のことが、望美は大好きだった。
「九郎さん、大好きです」
にっこり微笑んで言うと、赤かった顔がさらに真っ赤に染まる。
照れ屋の彼は、こうして面と向かって告白すると必ず赤面してしまうのだ。
その姿が可愛くて愛しくて、つい何度も言ってしまう。
「九郎さん、大好き」
もう一度伝えたところで抱き寄せられ、彼の腕の中に。
「わかってる……俺もお前が好きだ」
思いがけず返ってきた告白に、望美は驚いて九郎を見上げた。
「な、なんだ?」
「九郎さんが返してくれるなんて珍しくって」
「お、俺だってたまには……っ」
耳まで真っ赤に染まった九郎に、望美が嬉しそうに胸にすり寄った。
「九郎さん、大好きだよ」
「……」
「……むっ」
「……ときだ」
「え?」
沈黙に頬を膨らましかけるが、続いた呟きに視線を九郎に移して先を促す。
「俺がいつお前のことを好きになったかだが……」
「いつなんですか?」
「たぶん雨乞いの儀でお前が舞を舞った時……あの時にすでに魅了されていたんだろうな」
ふっと微笑んだ九郎に、今度は望美の頬が赤く染まった。
「ふ、不意打ちですよ!」
「なにがだ?」
「……っ」
照れ屋の彼は時々こんな風に素で喜ぶような言葉をくれるから、不意をつかれた望美が逆に照れてしまうことが間々あった。
そうして重ねられた唇に、全身真っ赤に染まる。
「お前の方がよっぽど照れ屋じゃないのか?」
にやりと微笑む九郎に、望美が頬を膨らませる。
それでもこうして九郎が傍にいて、笑いあえることが嬉しくて。
何度でも口に出して伝えてしまう。
「九郎さん、大好き」
望美の言葉に、九郎は熱い口づけで答えた。