この命ある限り

九望23

【注意】この話は迷宮後、異世界へ戻った捏造京END設定です。

「わっ!」
部屋に入るなり天井いっぱいに吊られた袋に、望美は瞳をぱちぱちと瞬かせた。

「先生、あれはなんですか?」
「銀杏だ」
手を伸ばし一つの袋をとると、封を開けて中身を見せる。

「先生が取ってきたんですか?」
「うむ」
鞍馬の山奥に一人暮らすリズヴァーンは、山の果実や魚などを獲って生活していた。

「持っていきなさい」
「え?」
「九郎も好きだろう」

以前、鶴岡八幡宮で一緒に食べたことを思い出し、望美は微笑み銀杏の袋を受け取る。
山のたもとでリズヴァーンと別れた望美は、その足で六条堀川の邸へと戻っていく。

迷宮を解き、望美の世界の五行を正した時、九郎は望美の世界に留まるべきか、元の世界に帰るべきか悩んだ。
帰れば恩義ある平泉を戦に巻き込む可能性があり、残っても今まで見につけた武芸が意味を成さない世界では居場所がない。
どちらの世界にも居場所のない自分では望美を幸せに出来ないと一人悩む九郎に、望美はまっすぐに見つめて二人で考えようと伝えた。
ずっと一緒にいるのだから。
二人は決して離れないのでしょう、と。

悩んで何度も互いの思いを確認しあって、二人は九郎の世界を選んだ。
和議を成し、歴史が変わったとはいえ、頼朝が九郎を警戒していることに変わりはない。
いつ、望美が知る源義経と同じ運命を辿るやも知れず、気が気ではなかったが、それでも二人ならきっと乗り越えていけると、そう信じられた。
だから――。
愛しい人の姿を見つけた望美は、顔を綻ばせて駆けて行く。

「九郎さん!」

「望美か。今日は先生のところに行っていたんだったな。お元気だったか?」

「はい。これ、先生から九郎さんにって」

「銀杏か」

ふっと目を細めた九郎の胸によぎる思い出に、望美も微笑み思いを重ねる。

「前に一緒に食べた銀杏、美味しかったですよね」

「ああ。その後、鳩に囲まれ大慌てしていたな」

「あ、あれは……っ! 九郎さんもすぐに助けてくれればいいのに、笑ってるんですもん」

「そう怒るな。楽しげに見えたんだ」

「見てるほうと違って大変だったんです!」

「ははっ、すまん」

懐かしい遣り取りを繰り返して、顔を見合わせ笑いあう。
こうして共に笑いあい、一緒にいられることが嬉しくて、身を寄せて互いの温もりを感じあう。

「俺はこの手を離さない」
「私はずっと、九郎さんと一緒ですから」
「ああ、俺たちは何があっても離れない。二人で幸せになるんだ」

誓いを言の葉にのせ、指を絡めて重ねあう。
だから、しっかり繋いでいこう。
決して離れることのないように。
あなたの隣りに、いつも私があるように――。
Index Menu ←Back Next→