white day

九望22

――ずいっ。
目の前に唐突に突き出されたものに、望美は瞳を白黒させた。

「あ、あの……九郎さん?」
「な、なんだ?」
「これはなんでしょうか?」

説明もなく半ば強引に受け取らされた、可愛い包装のなされた3つのものに、望美は不思議そうに九郎を見つめると、今日会った時からずっと真っ赤な顔の九郎が、さらに耳まで真っ赤に染まった。

「きょ、今日は“ほわいとでー”とかいう日なんだろう?」
九郎の言葉に、すっかり忘れ去っていた望美がようやく納得した。

「これはバレンタインデーのお返しなんですね」

バレンタインデーはしっかり覚えていたのだが、ホワイトデーは綺麗に忘れていた。
それにまさか九郎がホワイトデーを知っていて、さらにお返しをくれるなど思いもよらなかったのである。 しかし――。

「どうして3つなんですか?」
「“ほわいとでー”には3倍返しをするものなんだろう? 将臣と譲にそう聞いたのだが……」

有川兄弟はバレンタインデーで貰った男は、さらに良いものを贈り返すという意味合いで言ったのだろうが、九郎は言葉そのままに受け取り、望美から1つ貰ったので3つ用意したのだった。

「……」
そっと包装を開けると、それは望美が作ったチョコブラウニーやアーモンドなどのチョコが入った詰め合わせだった。
しかも同じものが3つ。

「これ、九郎さんが自分で買いに行ってくれたんですか?」

ふと気になって問うと、九郎は照れ隠しに顔を背けて「そ、そうだ」と頷く。
普段菓子など買うことのない九郎が、自分のために店に出向き、店頭に並んだ商品に四苦八苦しながら買ってくれたのだと思うと、自然と頬が緩んでしまう。

「な、何を笑ってる!?」
「ごめんなさい。これを買いに行ってくれた時のことを想像したらすごく嬉しくって」

言葉にしたらさらに喜びがこみ上げてきて、涙が溢れてきた。

「な! 何で泣いてるんだ!?」
「嬉しくてです。ありがとう、九郎さん」

驚く九郎に涙を拭うと、そっと腕を絡める。
以前なら「人前で!」とそっけなく振り払われたものだが、今では照れて顔を背けはしても、振り払うようなことはしなかった。

「大好きです。ありがとう、九郎さん」
相変わらず顔を背け続ける九郎に、望美は幸せをかみ締めながら、チョコを1つ口に放った。
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