「はい、九郎さん!」
可愛い花柄のピンクの包装紙でラッピングされた箱を手渡され、九郎は不思議そうに手の中の箱を見た。
「これはなんだ?」
「今日はバレンタインと言って、大好きな人にチョコをあげる日なんです」
「そ、そうか」
望美の説明に、九郎が顔を赤らめる。
誤魔化すように包装紙を破くと、中から出てきたのは数点の菓子。
「これが“チョコ”か?」
「これがアーモンド入りで、こっちがプレーン。で、これはチョコブラウニーというケーキです」
ぽんぽんと飛び出す意味不明な単語に、九郎はとりあえず食べてみることにした。
「うまいな。少し甘いが、なかなかの美味だ」
「本当ですか!? 嬉しい!」
九郎が喜んでくれたことに、望美が大喜びする。
「そんなに嬉しいのか?」
「それはそうですよ。頑張って作って喜んでもらえたら、すっごく嬉しいんです」
「作ってって……これは望美が作ったものなのか!?」
「そうですよ」
驚き、改めて箱の中のチョコを見る。
菓子など自分で買うことのない九郎だが、時々望美が持ってきたものをつまむこともあり、贈られたチョコはそれらと大差ないぐらいに上手に出来ていた。
「前に貰ったクッキーもそうだが……望美は料理が上手なのだな」
「違いますよ。料理は全然ですけど、お菓子なら少し作れるんです」
「そうか」
料理と菓子の作り方の違いはよく分からないが、素直に頷き再度菓子を口にする。
「これから料理もいっぱい練習して、いつか九郎さんに毎日食べてもらえるように頑張りますね!」
毎日食べてもらう……つまりそれは。望美の言葉に、九郎は顔を真っ赤に染めた。
「だから、いつかお嫁さんにしてくださいね!」
にっこり微笑まれて、九郎は耳まで真っ赤に染めて顔をそらすと、「わ、わかった」とぎこちなく頷いた。