トマト

九望19

【注意】このお話は『景時の災難』 の続きとなっております。

「なあ、弁慶」
「はい?」
書物に目を落としていた弁慶は、同じくリビングでくつろぐ九郎の呼びかけに顔を上げた。

「なんですか? 九郎」
「その、さっき望美は何を怒っていたんだ?」

赤い顎をさする将臣と、憤慨した望美。
その直後にやってきた九郎には、事の顛末が理解できずにいた。

「あぁ、そのことですか」
「譲に聞いても顔を赤くするだけで教えてくれんし、望美は怒っててとても聞ける雰囲気じゃない」

ここでヒノエを選ばない辺り、九郎もちゃんと人を選んでいるらしく、弁慶がふふっと笑みを漏らす。

「なんだ?」
「いえ、大したことではないんですよ」
前置きした上で、覗き見ていた様子を話す。

「どうも景時が朔殿を怒らせてしまったようで、気に病む景時を望美さんが慰めていたんです」

「それでどうして将臣がひっくり返っていたんだ?」

九郎が最初に目にしたもの、それは床に転がる将臣の姿だった。

「あれは将臣くんがちょっと悪戯が過ぎたからですよ」
「悪戯?」
「聞きたいですか?」

せっかく問うたのだ。
最後まで知りたいと頷く。

「ふふ、九郎には少し刺激が強いと思うんですが……」

「お前はどうも前置きが長すぎる。いいから早くしろ」

苛立ちをあらわに先を促す九郎に、弁慶は口の端をあげて言葉を続ける。

「将臣くんが望美さんに不埒な行いをしたからですよ。彼女の服をまくしあげるというまねを、ね」
「な……っ!」
状況を想像してしまい、見る見る顔が赤く染まる。

「望美さんは将臣くんと譲くんなら、単(下着)姿を見られても恥ずかしくないそうですよ?」

真っ赤になって慌てる様がおかしくて、さらに煽るようなことを口にする。

「あ、あいつは羞恥心と言うものがないのか!?」

「いえ、僕たちはダメなそうですから……少し妬けますよね?」

「い、いや、そういうことじゃなく……ッ」

目に見えて狼狽する九郎に、弁慶はくすくすと笑いを漏らす。

「九郎さん、どうしたんですか?」
突然現れた望美に、九郎は耳まで真っ赤に染まると、ぎくしゃくとその場から逃げ出す。

「どうしたんでしょうか? 九郎さん」

「ふふ、大したことじゃないですよ。それよりもどうしたんですか?」

「うん、宿題で分からないところがあったから、譲くんに教えてもらおうと思って」

譲の方が年下だというのに、恥ずかしげもなく話す望美に苦笑を浮かべる。

「薬のことなら僕が教えてさしあげられるのですが」
薬剤師という資格が向こうの世界にもあったなら、弁慶はあっさりと取得できたことだろう。

「具合が悪くなった時にはお願いしますね」
にっこり微笑む望美に、弁慶も笑みを返した。
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