九望18

【注意】二人の子ども(赤子)が出てくるので、苦手な方はまわれ右でお願いします。

「九郎さん」
呼びかけに振り返ると、赤子を抱いた望美が歩み寄る。

「何を見てたんですか?」
「柿の時期だと思ってな」
「九郎さん、柿好きですものね」
「ああ。もう少ししたら干し柿を作れる」

そのままの柿も好きだが、干し柿にした時の甘さも好きな九郎は微笑むと、望美の腕から我が子を抱き上げた。

「首が据わってきたな」

「はい。これで後ろにおんぶしても大丈夫なのでよかったです。首が据わるまではもう怖くて」

「そうだったな」

息子が生まれた当初、初めての育児に右も左も分からず悪戦苦闘していた望美を、九郎は共に支えていた。

「もう少ししたら寝返りも出来るようになるみたいですよ」
「楽しみだな」
「はい!」

育児本を読み漁って、母から話を聞いてと育児熱心な望美の話を聞いてやりながら、腕の中の暖かな存在を見つめる。
この世界にやってきて望美と結婚し、生まれてきた命。
本来ならばありえなかった未来が、今目の前に拓けていた。

「九郎さん?」

「……幸せだと思ってな。お前のおかげだ。ありがとう、望美」

「どうしたんですか? 急に素直になって」

「むっ。俺だって素直に礼ぐらい言う」

「ふふ、どういたしまして。私もありがとうございます」

「なんでお前まで礼を言うんだ?」

「だって、私も幸せですから」

「そ、そうか」

「そういうところ、変わりませんよね」

「う、うるさいっ」

九郎の赤く染まった顔を見て微笑む望美に、視線を息子へとそらす。

「……綺麗な瞳だな」
まっすぐ未来を映す、曇りのない澄んだ瞳。

「お前の生まれたこの世界は素晴らしいものが溢れているぞ」

九郎を受け入れ、幸福を与えてくれた世界。敵に怯えることも、戦に身を投じることもない、平和な世界。

「母の乳をたくさん飲んで大きくなれ。剣を教えてやろう」
「まだまだ無理ですよ」
「わかってる。いずれだ」
「ふふ、はい。そうですね」

今、真剣を手にすることはない。
けれど剣を教えたいと、そう思う。
未来を切り拓く力となるように。
自分が伝えられるものを。

「ど、どうしたんだ?」
「ああ、お腹が空いたのかもしれません」
急にぐずりだした息子に慌てると、望美が受け取り優しくあやす。

「お茶を淹れますから、中に入りましょう?」
「ああ」
頷き並んで歩いて行くのは、望美と築く我が家。

「俺は幸せものだ……」
もう一度呟くと微笑み、キッチンに向かった。
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