【注意】二人の子ども(赤子)が出てくるので、苦手な方はまわれ右でお願いします。
「九郎さん」
呼びかけに振り返ると、赤子を抱いた望美が歩み寄る。
「何を見てたんですか?」
「柿の時期だと思ってな」
「九郎さん、柿好きですものね」
「ああ。もう少ししたら干し柿を作れる」
そのままの柿も好きだが、干し柿にした時の甘さも好きな九郎は微笑むと、望美の腕から我が子を抱き上げた。
「首が据わってきたな」
「はい。これで後ろにおんぶしても大丈夫なのでよかったです。首が据わるまではもう怖くて」
「そうだったな」
息子が生まれた当初、初めての育児に右も左も分からず悪戦苦闘していた望美を、九郎は共に支えていた。
「もう少ししたら寝返りも出来るようになるみたいですよ」
「楽しみだな」
「はい!」
育児本を読み漁って、母から話を聞いてと育児熱心な望美の話を聞いてやりながら、腕の中の暖かな存在を見つめる。
この世界にやってきて望美と結婚し、生まれてきた命。
本来ならばありえなかった未来が、今目の前に拓けていた。
「九郎さん?」
「……幸せだと思ってな。お前のおかげだ。ありがとう、望美」
「どうしたんですか? 急に素直になって」
「むっ。俺だって素直に礼ぐらい言う」
「ふふ、どういたしまして。私もありがとうございます」
「なんでお前まで礼を言うんだ?」
「だって、私も幸せですから」
「そ、そうか」
「そういうところ、変わりませんよね」
「う、うるさいっ」
九郎の赤く染まった顔を見て微笑む望美に、視線を息子へとそらす。
「……綺麗な瞳だな」
まっすぐ未来を映す、曇りのない澄んだ瞳。
「お前の生まれたこの世界は素晴らしいものが溢れているぞ」
九郎を受け入れ、幸福を与えてくれた世界。敵に怯えることも、戦に身を投じることもない、平和な世界。
「母の乳をたくさん飲んで大きくなれ。剣を教えてやろう」
「まだまだ無理ですよ」
「わかってる。いずれだ」
「ふふ、はい。そうですね」
今、真剣を手にすることはない。
けれど剣を教えたいと、そう思う。
未来を切り拓く力となるように。
自分が伝えられるものを。
「ど、どうしたんだ?」
「ああ、お腹が空いたのかもしれません」
急にぐずりだした息子に慌てると、望美が受け取り優しくあやす。
「お茶を淹れますから、中に入りましょう?」
「ああ」
頷き並んで歩いて行くのは、望美と築く我が家。
「俺は幸せものだ……」
もう一度呟くと微笑み、キッチンに向かった。