「綺麗だね」
夜空に浮かぶ月を見上げて微笑む望美に、寄り添い同じく見上げていたヒノエは、視線を彼女に移した。
「そうだね。でも俺には隣りの望月の方がずっと魅力的かな」
「もう」
満月を名に冠する望美は、夫の甘言に頬を染めると照れくさそうに身を寄せた。
月に望美を重ねる……離れていた間、そうして月を見上げていたことは一度や二度ではない。
そう遠くなく彼女を迎えに行くと、そう心に決めてはいた。
けれどもずっと傍らにあった愛しい女の存在が一時とはいえ失われることに寂しさを感じなかったわけではなかった。
そんな時、空を見上げて浮かんだ月に望美の姿を映していた。
「見えずとも 誰恋ひざらめ 山の端に いさよふ月を 外に見てしか」
「それ……以前にも聞いたことがあるよね?」
ヒノエが口ずさんだ和歌に望美が見上げると、ふっと甘く輝く瞳。
「今は見えない姿を他に映す必要はないね」
手を伸ばせば伝わる確かなぬくもり。
誰よりも愛しい女。
「そうだね。もう【ヒノエくん探し】をすることもないかな」
一度一人で元の世界に戻った時、もう一度ヒノエと会えると思っていなかった望美は、無意識にヒノエの面影を求めるようになっていた。
「他にこんないい男はいないからね」
「もう。本当に自信家なんだから」
苦笑しながら、それでも翡翠の瞳は同意を宿していて。
「俺も同じだよ」
「え?」
呟きに問いを返される前に、その唇を柔らかく塞いだ。