■夢浮橋のお話です
「はぁ~……」
深いため息を漏らしたあかねに、花梨と望美が心配げに彼女を覗き込んだ。
「どうしたの? 具合悪いの?」
「ううん。そうじゃなくて……」
ちらりと望美を見て、再びため息。
あかねの視線の先にいた望美は自分が何かしてしまったのかと、石に腰かけたあかねの目線に合わせ、しゃがみこんだ。
「私、あかねちゃんに何かいやなこと言っちゃったかな?」
八葉が心配で気が動転していたので、共に捕らわれていたあかねにもしや何かひどいことでも言ってしまったのではないかと、望美が顔を曇らす。
「違うの。望美さんは何もしてないよ。ただ羨ましいな~って思って」
「羨ましい?」
あかねの答えに、花梨と望美が揃って首をひねる。
「望美さん、すごくスタイルいいでしょ?」
望美と自分の胸を見比べ、あかねは再びため息をつく。
「確かに……ちょっと羨ましいかも」
「そ、そんなことないよ!」
異なる時空の二人の神子の羨望の眼差しを受けて、望美が慌てて手を振る。
「私、食いしん坊だから足だってこんな……」
「すごくスラリとしてるよね」
「うん。モデルさんみたい」
「ふ、二人とも褒めすぎだよっ」
「望美さん、胸いくつ?」
「え? え~と、Cの75……かな?」
「私なんてAの70……」
「私もぎりぎりB……」
「ふ、二人とも成長期なんだから、これからいくらでも大きくなるって!」
じっとりと沈み始めたあかねと花梨を、望美が必死にフォローする。
と、後ろから伸ばされた腕に、三人三様に抱き寄せられた。
「と、友雅さんっ!?」
「勝真さんっ!?」
「ヒノエくんっ!?」
慌てる神子たちに、男たちは不敵な笑みを浮かべた。
「神子殿はそんなことを気にしていたのかね?」
「だ、だって私、背もちっちゃいし……」
「こうして私の腕の中に捕らわれる神子殿が、私は可愛いと思うのだがね」
「別に小さくても構わないだろ?」
「私は構うんです!」
「俺はこれだけあれば十分だと思うぜ?」
「勝真さんのエッチ~!」
真っ赤な顔のあかねを腕の中に捕らえて微笑む友雅と、ひょいと花梨の胸に触って叩かれてる勝真に、望美もヒノエの腕で暴れる。
「ヒ、ヒノエくん、離して!」
「女の子を美しく咲かせるのなんて簡単なのにね」
「え?」
望美を抱きしめながら、ヒノエが妖しく微笑む。
「好きな男に愛されればいいんだよ。そうすれば悩みなんて消し飛ぶぜ?」
「そうだね。触れられれば大きくなるとも、聞いたことがあるからね」
「本当ですか!? ……っで、でもそれはやっぱりダメです!」
一瞬身を乗り出すが、言葉の意味を悟ったあかねは我に帰って慌てて首を振る。
互いに想いを寄せ合う神子と八葉の騒動に、望美も必死にヒノエの腕から逃れようとするが、一見華奢に見える腕はびくともしなかった。
「俺の姫君はそのままでも十分魅力的だからね。神子姫たちが憧れるのも当然かな?」
「私はそんなに綺麗でもグラマーでもないってば!」
あかねや花梨だけでなく、ヒノエにまで褒められ、望美は恥ずかしくて顔を真っ赤に染める。
自分というものにとかく鈍感な望美は、いかに自分が華やかで魅惑的な存在かを、全く理解していなかった。
自分に驕らない望美が愛しくて、ヒノエは後ろから額に口づけ微笑む。
「お前のそういうところ、俺は好きだけどね。
お前は今のままで十分可愛いよ」
ヒノエの呟きに、友雅と勝真が同時に頷き、自分の神子を抱きしめた。