ある日の夕食時。
珍しく八葉に緊張が走っていた。
その原因は、彼らの中心で嬉しそうにご飯を食べる望美。
彼女に害があるというのではなく、問題はその食べ方。
望美の食べ方というのが妙にいやらしく、激しく妄想をかきたてられるのだ。
顔を赤らめ目を奪われている面々に、望美は不思議そうに声をかけた。
「どうしたの? ご飯冷めちゃうよ?」
望美の声にハッと我に返って箸を勧めるが、どうにも食が進まない。
「わりぃ。俺、もういいや」
「俺も」
「私も……」
「僕も失礼しますね」
次々と箸を置いて足早に立ち去る八葉に、望美が驚く。
「えぇ? みんなどうしたの?」
望美の声を背に、各々の場所へと散っていく八葉。
隠れて己を慰める者。
剣の鍛錬で雑念を散らす者。
酒で誤魔化す者……様々。
「よく今まで耐えられたね」
ため息をつきながら隣りに腰をおろしたヒノエに、縁側で酒を飲んでいた将臣は苦笑した。
彼等の目の前では、雑念を必死に払おうと剣を振る九郎の姿。
「生殺しだろ?」
「そりゃあ、ね」
苦笑いを浮かべて振られれば、さすがのヒノエも苦笑を漏らすしかない。
望美が神子でなければ……いや、自分のことを想ってさえいれば、すぐに押し倒すことも出来るのだが。
「敦盛や譲には刺激が強すぎるんじゃない?」
「譲はまぁ、いい加減慣れたというか……視線微妙にずらすことを覚えたみたいだが、敦盛は、な」
「純な敦盛まで惑わすなんて、姫君もやるね」
真っ赤な顔で一人消えた敦盛の姿を思い出して、苦笑を漏らす。
「譲が弓道始めた理由は望美だ。あいつを守れるようにっていうのもそうだが、あらゆる雑念を払いたいんだとよ」
「……そりゃ可哀想に」
確かにこの中途半端に昂った身体をどうしてくれよう?
他の女を抱きに行くのはどうにも後味悪く、こうして酒で誤魔化すより他にないのだから。
「手出すなよ」
「さあ? 見張っておかないとわからないぜ?」
笑いながらも目は真剣な将臣に、ヒノエが含み笑いを返す。
「僕も仲間に入れてもらいましょうか」
「熱を冷ます会にか?」
将臣の言葉に、弁慶も苦笑する。
「これだけの男を蠱惑するなんて、姫君もなかなかやるね」
ヒノエの言葉に、将臣と弁慶は目の前の九郎を見つめながら盃を飲み干した。