身体にこもった熱が少しずつ冷めて意識がはっきりとしてきた望美は、ふと目の前の肌に指を伸ばした。
「望美さん?」
「……傷、本当になくなったんですね」
「ええ。君の神子の力のおかげです」
望美を一人返し、九郎と共に鎌倉勢に追われた
弁慶は、一人囮となり、その身に幾十もの矢を受け、息絶えかけていた。
そこに現れたのが、時空を超えて、再び降り立った望美。
剣を振るい、向かい来る鎌倉勢を切り払って。
古の白龍の神子が為した具現化の力を、弁慶に
ふるった。
「でも私、必死でどうやったか全然覚えていないんです」
青白い顔に、止まらない血。
彼の身に纏った外套が色もわからないほど血の
染みていく様に、望美は白龍に懇願した。
己の神子の声に応え白龍が示したのは、神子の
具現化する力。
かつて200年ほど前に、望美と同じように現代からこの世界に召喚された神子がふるったという、その力を使えば弁慶を救えると教えられた望美は、必死に祈りをささげた。
弁慶が死んでしまわないようにと。
「形無きところに形を造り、生無きものを生あるものに変える、神の息吹をそそぐ御業。
まさか伝承をこの身で体感できるとは思いませんでした」
その昔、同じく京が危機にさらされた時、召喚された神子がふるったという五行を具現化する力。
その力は、石で造られた花に命を与え、心無き
人形に生を与え、傷ついたものを癒し救ったという。――弁慶のように。
「君が具現化の力をふるっている時に感じました。……君の、想いを」
遠のく意識の中で感じた、ただ一途にささげられる祈り。
弁慶を救いたいと……傍にいて欲しい、と一途に彼を求め、願う想い。
優しくて、切なくて、甘く……激しい。
その想いが自身に向けられていると知った瞬間、弁慶はもう望美を手放せない事を悟った。
「君はいつも僕を驚かせますね」
人が傷つくことを厭い、それでも自ら戦場に赴き剣をふるう。
泣いて、笑って、怒って。
鮮やかな表情で弁慶を惹きつけ、いつしか心の奥に消えない火を灯した。
「私だって、弁慶さんには驚かされてばっかりでしたよ」
「そうですか?」
「……こんなに激しい人だなんて思わなかったし」
もにょもにょと恥ずかしげに消えゆく語尾に微笑んで。
見上げていた翡翠の瞳が、ゆっくりと閉じていくのに合わせて唇を重ねる。
「だったらおあいこですね。僕も、君がこんなに甘いなんて知りませんでしたから」
「………ッ。弁慶さんの、バカ」
「意地悪を言う口は塞がないといけませんね」
真っ赤に染まった顔に微笑むと、顔を傾け唇を
食んで。
その吐息が再び甘く、乱れていく至福の時に身を委ねた。