紅の記憶

弁望81

ふわりと横切る白に、望美は空を見上げた。

「雪……」

次々と舞い降りる雪。
汚れなき純真な色で全てを白く染めていく。
その中に浮かんだ鮮やかな――紅。
黒いはずの外套の色を変えるほど、おびただしく流れた血。
真っ白な雪を彩る痛ましい紅の中心にいたのは、望美が最後まで想いを告げることが出来なかった弁慶だった。

「――望美さん?」
呼び声にハッと我に返る。

「弁慶、さん……」
「そろそろ来る頃だと思って外を眺めていたら、君の姿が見えたのもですから。
……どうしました?」

問う声に、しかし答えられずにその胸に顔を埋めた。
頬に感じる、規則正しい鼓動。
それは彼が確かに生きているという証だった。

「……僕は君の傍にいます。これからもずっと」
「…………っ」

声にならず、望美は弁慶の服を掴んで小さく
頷く。
震える肩に望美を苦しめているものが何か、悟った弁慶は腕を回してその身を抱き寄せる。

この記憶はきっと一生消すことは出来ないだろう。
それでも、彼が側にいてくれれば不安は拭われるから。
刻み込まれた紅の記憶をと共に、望美は弁慶を
抱きしめた。
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