「よっ!」
「将臣くん!」
「元気だったかい?」
京邸に再会を喜ぶ声が響く。
今日は将臣が京へやってきたことにあわせ、景時の計らいで久々に仲間が顔をあわせていた。
「弁慶殿は後からいらっしゃるの?」
「うん。回診終えたら来るって」
薬師として働く弁慶は毎日回診をしており、望美だけ先に訪れていた。
「やぁ、姫君。相変わらず麗しいね」
「ヒノエくん! ……敦盛さん!?」
相変わらずの甘言に苦笑しながら振り返った望美は、ヒノエの後ろに立つ人を見て瞳を見開いた。
それは戦いが終わってから行方知れずとなっていた敦盛だった。
「神子……その、久しぶりだな」
「敦盛さん! 元気だったんですね。何も言わずに姿を消してしまったから、ずっと心配してたんですよ」
瞳を潤ます望美に、敦盛が申し訳なさそうに視線を落とす。
「心配をかけてしまったようだな……すまない」
「いいんです。敦盛さんが元気だったのなら……本当に良かった」
にこりと微笑むと、ヒノエを振り返る。
「ヒノエくん、敦盛さんを連れてきてくれてありがとう! でもどうやって見つけたの?」
「敦盛のことだから、戦が終わればこういう行動に出ると思ってたんでね。ずっと烏に様子を見させてたんだよ」
「やはりそうだったのか」
誰にも行く先を告げず、一人行脚の旅に出ていた敦盛は、突然ヒノエに出くわし半ば強引に今回
連れてこられたのだった。
「敦盛さん、もう一人で姿を消したりしないで下さい。ずっと傍に居ろなんて言いませんけど、でもどこにいるのかぐらいは教えてください。
私達は仲間なんですから」
本当に心配していたと伝わってくる望美の真剣な眼差しに、敦盛は笑んで頷く。
「ああ……今度はちゃんと告げていく」
「はい!」
「弁慶とリズ先生がまだだけど、先に始めちゃおうか?」
景時の声を合図に、朔が皆を宴の間へと誘う。
戦いが終わってから各々の場所へと散っていたので、こうして皆で顔をあわせるのは本当に久しぶりのことだった。
「将臣の方はもう大丈夫なのか?」
「ああ。移住した島の村人とも諍いなく受け入れられたし、今じゃ穏やかな暮らしをしている。
その節はありがとうな、九郎、景時」
「礼など不用だ。元々目的は平家を滅ぼすことじゃなかったんだ」
朗らかに笑う九郎に、景時が苦笑を浮かべながら頷く。
「頼朝様も都奪還の意思がないと、追討は必要なしと判断されたからね。安心していいよ」
酒をかわしながら話に花を咲かせる仲間の姿に、望美が嬉しそうに微笑む。
「お前は飲まないのかよ?」
「そういえば望美は酒が苦手だったな」
祝賀の席でも酒を勧められては、渋々口をつけた杯に渋い顔をしていた望美を思い出した九郎に、望美がこくんと頷く。
「うん。だってお酒って苦いんだもん。どうしてみんな、そんなに平気なの?」
「慣れれば美味いもんだぜ?」
「将臣くんも本当は私と同い年のくせに……」
元同級生である幼馴染は、京に連れてこられる時に時空の狭間で離れてしまい、3年半の時がずれてしまったのである。
「俺はお前よりも3年も前に着いたから、もう
未成年じゃねーんだよ。それにあっちにいた頃も、たまに親父の晩酌に付き合ってたからな」
「えぇ~? そうだったの? いけないんだ~、将臣くんってば」
「んん? 望美ちゃんと将臣くんの世界では、お酒飲んじゃいけなかったの?」
「私達の世界では、20歳を超えないと成人したとみなされないので、それまではお酒は飲んじゃいけないんですよ」
景時の質問に、望美が答える。
「あれ? でも敦盛さんもあまり飲んでませんね?」
杯の中身がほとんど減っていない敦盛に首を傾げると、ヒノエが横から口を挟む。
「こいつもあんまり酒は得意じゃないんだよ。なあ、敦盛?」
「ああ。私も神子と同じだ」
「そうなんですか? わぁ~、私だけじゃないってちょっと嬉しい」
同意を示す敦盛に望美が喜ぶ。
この世界では12歳頃には元服し、大人とみなされる為、仲間は皆酒をたしなんでいるのである。
「でも敦盛にも飲める酒があったよな?」
「……あの異国の酒のことか?」
ヒノエに話を振られ、敦盛が記憶を呼び戻すように思案する。
「異国のお酒?」
「びいどろに入った……確か“ワイン”という名前ではないだろうか」
「敦盛さんもワイン好きなんですか?」
思いがけない言葉に、望美が驚く。
「あぁ。あの“ワイン”という赤い酒だけは、飲み口が柔らかくて私でも飲めたんだ」
「私もです! 前にヒノエくんがお祝いにくれたんですけど、京のお酒と違ってすごく甘いんですよね」
敦盛と望美の会話に、景時達も身を乗り出す。
「ワイン? 初めて聞くね」
「なんだよ、お前ワインなんか飲んでたのかよ」
「1回だけだよ。とっても貴重なものだもの」
「そういえば前に土産に望美にあげたよね?」
「あっ! そういえば家にあるんだった! 私とってきますね」
立ち上がった望美に、敦盛が戸惑う。
「いや、私は別に……」
「せっかく敦盛さんに会えたんだもの。ワインが好きならぜひ飲んで欲しいです。ヒノエくん、皆で飲んでもいい?」
「姫君にあげたものなんだから、好きにしていいんだぜ?」
「じゃあ、ちょっと行って来るね!」
「あ、待て! 俺も行こう」
飛び出して行こうとする望美に、九郎が慌てて席を立つ。
「九郎さん?」
「女一人で行かせて何かあっては弁慶に顔が立たないからな」
「大丈夫ですよ」
「さあ、行くぞ」
促され、言い出したら決して譲らない生真面目な九郎に、くすりと笑って後を追う。
その姿を見送りながら、ヒノエは口の端をつり上げた。
「策はなせり……と」
「ヒノエ?」
ヒノエの呟きに、敦盛が怪訝そうに見つめた。
→2に続く