愛しい女性

弁望61

「……何だか僕ばかりが妬いていますね」
睦み合った後、ぽつりと呟いた弁慶に望美が首を傾げる。

「何ですか? 弁慶さん」
「君は魅力的な人なので、僕ばかりが妬かされているな……と思っただけです」
苦笑を洩らす弁慶に、昼間のヒノエとのやり取りが思い出される。

「そんなことないですよ。私だって本当はずっと妬いてるんです」
「本当ですか?」
「はい。お仕事中に綺麗な女性に出会ってたら
どうしようとか、そういう女性の往診とかもするんだよな~とか」

薬師である弁慶は、当然のことながら患者を診るために一対一で対峙することも多く、それは女性も含まれていた。

「それに……過去の女性も」
顔を曇らせる望美に、弁慶がそっと口づけると
微笑む。

「僕が愛したのは、君が初めてですよ?」
「嘘です! だってあんなに手慣れてて……」
はっと口を覆うと、真っ赤になって俯く。

「ふふふ、信用ありませんね。本当に君が初めてなんですよ? 僕が“愛した”女性はね」
「弁慶さん……」
見つめられて唇を合わせると、望美はそっと弁慶の胸にすり寄る。

「僕が見つめるのは、今もこれからもずっと君だけですよ。望美さん」

曖昧な返事は、しかし弁慶の本音だった。
望美が問うている“女性との関係”に関しては初めてとは言えないが、本気で愛した女は望美しか
いなかった。
そんな弁慶の心の内を知らぬ望美は、ちょっと
悲しそうに顔を曇らせるけど。

(本当に君だけなんですよ。こんなに人を愛しく思ったのは……)
面とは言わない言葉を呟き、弁慶はそっと望美に口づけた。
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