季節の変わり目で体調を崩し、連日賑わっていた診療所も落ち着いた頃、望美は弁慶と共に薬草を摘みに来た。
望美のいた世界のようにカプセルや錠剤で保管が出来ないため、定期的にこうして山に入っては
薬草を摘むのが二人の日課だった。
「必要な薬草はこれで集まりましたね」
「ええ。優秀な助手のおかげで助かりました」
「もう、誉めても何も出ませんからね」
「では、僕からこれを」
そう言って差し出されたのは、桜の葉に包まれたお餅。
「どうしたんですか? これ」
「さっき寄った市で見つけて買ったんです。
頑張ってくれた君へのご褒美に、ね」
「ありがとうございます」
喜び受け取ると、ほんのり桜の香りがして嬉しくなる。
「桜ももう終わりだけど、こうして名残を楽しめて得した気分です」
「ふふ、そう言ってもらえると買った甲斐がありました」
「弁慶さんも食べませんか?」
はい、と桜餅を半分こにして差し出すと、受け
取った弁慶の微笑みに小首を傾げる。
「弁慶さん、なんだか嬉しそう?」
「半分こが嬉しいなんて言ったら笑われてしまうかな。でも、こうしてふとした瞬間に君が傍にいることを感じて、幸せを実感するんです」
互いのものを分け合って、身を寄せ合って笑いあう。
そんな触れ合いがくすぐったくてたまらなく幸せなことを、弁慶は望美に教えられたから。
お餅のほのかな甘さは望美そのもので、弁慶を
この上なく幸せにする。
「私も幸せです。弁慶さんと一緒にいれば、ずっと幸せですよ」
にっこり微笑めば端正な顔が近づいて、ぺろりと唇の端を舐めた舌の感触にぼんっと体温が急上昇する。
「べ、弁慶さんっ?」
「口の端に餡がついてました」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
恥ずかしさに文句を言いたいが、自らの落ち度に口を噤むと唇が笑みをかたどり揺れる肩に、望美は今度こそぷくりと膨れる。
「弁慶さん、笑い過ぎです」
「すみません、あまりにも君が可愛くて」
「誤魔化されませんよ」
彼の甘言に多少の免疫がついてきた望美は、流されまいと唇を尖らせ睨む。
「誤魔化してなんていませんよ。本当に可愛いと思ってるんですよ?」
「子どもみたいだと思ってるだけでしょう?」
口の端につけて食べるなんて子どものようだと
拗ねると頬を撫でられ、反射的に見上げるとさらりとこぼれ落ちた栗毛の髪に唇が重なる。
「子どもにこんなことはしません」
「べ、弁慶さん! ここ、外ですよ!?」
「そうですね」
「そうですね、じゃなくて……っ」
焦る望美に、けれども弁慶はどこ吹く風でもう
一度口づけるから、気づけば抵抗する気力は消えていた。
「……君は本当に可愛くて目の毒ですね」
「な……」
「僕を陥落させた責任、取ってくれますね?」
「そんなの……弁慶さんも取ってくれますよね?」
「もちろんです」
赤い顔で見上げれば幸せそうな笑みを浮かべて返されて、望美は心の中で白旗をあげるといくらでも責任取りますよと抱き寄せた。
2018/05/05【リクエスト お天気が良い日ののんびりデート甘め】