そして願いは叶った

弁望41

「望美さん?」
急に立ち止まり駆けて行った望美に、その後を
追った弁慶は彼女の視線の先にあるものを見て
微笑んだ。

「オダマキですね」
「はい。……覚えてますか?」
「ええ。前にも君はこうして足を止めて見てましたよね」

時空跳躍をして今の未来を勝ち取った望美は、
この時空がその時と繋がっているのか分からなかったので、ほっと胸を撫で下ろし頷いた。

「私、この花を見つけた時に譲くんに花言葉を
教えてもらったんです」
「花言葉、ですか?」
「はい。私のいた世界では草や花の見た目や香りなんかから連想される言葉を花言葉にしてたんです」
一つ、一つに込められた言葉――想い。

「この花の花言葉はなんというんですか?」
「『あなたが気がかり』です」
「あなたが気がかり……」
「私、この花言葉を聞いた時、真っ先に弁慶さんが浮かんだんです」

それは望美自身も恋心に気づいていなかった頃。
それでも心の奥深くには、すでに弁慶の存在は
すみついていた。
だから後を追った。
笑顔の脅迫を受けても、その姿を求め捜し歩いた――時空の先まで。

「でもあの時、もう一つ別の花言葉も教えてもらったんです」
「もう一つ?」

白のオダマキは『あなたが気がかり』。
そしてオダマキが持つもう一つの花言葉。

「必ず手に入れる」

目を見開いた弁慶に、望美はふふっと微笑んだ。

「だから、オダマキは私なんです」
追いかけて、追いかけて、絶対弁慶が生き残る
未来を掴む。
そう誓い、望美は足掻いたのだった。

「ではもう一度、君にこの花を贈らせて下さい」
「弁慶さん?」
オダマキを手渡され、望美は瞳を瞬いた。

「僕もそう思ったんです。――君に八咫鏡を見せられた時に」
未来を見てきたと、涙を浮かべながら告げた望美が差し出したのは、三種の神器の一つ・八咫鏡。
誰も犠牲にしない方法を……そう求める望美に
決意したのだ。
過去の罪を償い、その先の未来を得よう、と。

「僕が手に入れたいと願ったのは、応龍が見守るこの京。そしてその世界で君と共に生きる未来です」
「弁慶、さん」
「捕らわれてくれますか?」
耳元の囁きに、しかしふるりと首を振った。

「弁慶さんに捕らわれたんじゃない。私が捕らえたんです、あなたを」
凛とした表情に魅せられ、弁慶はそっと抱き寄せた。

「ではこの花は僕たち二人、ということですね」
手にした小さな白い花に、微笑みあって身を寄せる。

あなたを。 君を。
―― 必ず手に入れる ――
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