ぬくもり

弁望39

衣づれの音と、間近に感じた気配に目を覚ますと、弁慶は暗闇の中に目を凝らす。
寄り添うように眠っているのは、今は彼の妻となった望美。
夜更かししたことから今日は共寝はせずに別々の布団で横になったのだが、いつの間にか望美がすり寄ってきたらしかった。
その理由に思い至ると微笑んで、自分の掛け布団でくるむように抱き寄せると、ぬくもりを彼女に分け与えた。

神子と八葉として同行していた時、幼い龍神や
対の神子と寄り添う姿をよく目にした。
それは仲睦まじさからでもあったが、こと冬に
関しては寒さに弱い望美が互いを温石がわりに温まっていたのだと気づき、苦笑したものだった。
囲炉裏で暖まっていた家内もすっかり冷えてしまったので、無意識にぬくもりを求め眠っていた
弁慶へ寄ってきたのだろう。
猫のように身を縮こまらせていたのが、ぬくもりが伝わったのかゆるりと脱力した身体をそっと
抱き寄せた。

恋人になって共にこの庵に住むようになってしばらくの間は、互いの部屋で寝起きしていたので、このようなこともなかったから、 これは二人の関係の変化でもあり、こんなふうに誰かの傍らで安心して眠れる弁慶自身の大きな変化でもあった。

「君はどれだけ僕を驚かせるんでしょうね」

物心ついてから他人の傍で気を抜いて眠ることなど出来はしなかった。
それが今ではこうして寄り添い、望美をあたためている。
伝わるぬくもりが心地良くて、彼女が安心して
眠れる存在であること――。
起きていても、眠っていても、望美がそこにいるという事実が、こんなにも幸せなのだから。

「……ん……弁慶さん……?」
「はい。まだ夜明けまでは時間があります。
おやすみなさい」
頬を撫でると、再び夢の世界へ誘われた望美を
抱き寄せて。
ぬくもりが溶け合う至福を感じながら、弁慶も
瞼を閉じた。
目覚めた時の彼女の反応を思い描いて。



「……弁慶さん!? どうして一緒の布団で寝てるんですか……っ?」
「心外ですね。僕の布団に忍び込んできたのは
君なんですよ?」
「えっ!? ……あ」
「ね?」

自分の寝ている場所が弁慶の布団だと気づいたのだろう。
動揺と羞恥が入り混じり、上目遣いで見つめる
望美に微笑むと、その頬を撫でて。

「ぬくもりが欲しいのなら、いつでも忍び込んで構いませんよ。ただ、添い寝で済むかは保証できませんけどね」

言外に艶めいた響きをのせれば、正しく理解した彼女は顔を真っ赤に染めて、「それでも構いません」との予想外の返事に、 弁慶は苦笑しながら、「君はいけないひとですね。朝から僕をそんなふうに煽って……」と戒めるように口づけた。


2017/12/13
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