Trick or Treat?

弁望36

「Trick or Treat!」
午前の診療を終えて戻ってきた弁慶は、突然意味不明な言葉をかけられ、きょとんと彼の奥方を
見た。
その華奢な体を覆っているのは、彼が昔よく着ていた黒の外套。

「望美さん? それはいったいどういう意味なのでしょう?」

「『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ』って
問いかけで、お菓子を貰ったり悪戯しちゃう遊びがあるんです」

「お菓子……ですか」

何か甘いものはあっただろうか、と一瞬考えを
巡らすが、ふと彼女の様子に敢えてもう一方の解を選ぶ。

「あいにく甘いものは持ち合わせていません」
「だったら悪戯ですね!」
にこにこと、嬉しそうに近寄る望美に髪の結わい紐を解かれ。

「あとは、この紅を……」
以前彼女に贈った紅を手に、そっと唇に指でひかれる。

「……望美さん?」
悪戯をし終えた彼女は、けれども弁慶の姿を見るなり固まってしまった。
驚き見つめると、じんわり目尻に涙が浮かぶ。

「望美さん? どうした……」
「ずるい……」
「え?」
「弁慶さん、綺麗過ぎです!!」
うわんっと叫ぶや、飛び出していった姿を、ただ茫然と見送る弁慶だった。
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