「Trick or Treat!」
午前の診療を終えて戻ってきた弁慶は、突然意味不明な言葉をかけられ、きょとんと彼の奥方を
見た。
その華奢な体を覆っているのは、彼が昔よく着ていた黒の外套。
「望美さん? それはいったいどういう意味なのでしょう?」
「『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ』って
問いかけで、お菓子を貰ったり悪戯しちゃう遊びがあるんです」
「お菓子……ですか」
何か甘いものはあっただろうか、と一瞬考えを
巡らすが、ふと彼女の様子に敢えてもう一方の解を選ぶ。
「あいにく甘いものは持ち合わせていません」
「だったら悪戯ですね!」
にこにこと、嬉しそうに近寄る望美に髪の結わい紐を解かれ。
「あとは、この紅を……」
以前彼女に贈った紅を手に、そっと唇に指でひかれる。
「……望美さん?」
悪戯をし終えた彼女は、けれども弁慶の姿を見るなり固まってしまった。
驚き見つめると、じんわり目尻に涙が浮かぶ。
「望美さん? どうした……」
「ずるい……」
「え?」
「弁慶さん、綺麗過ぎです!!」
うわんっと叫ぶや、飛び出していった姿を、ただ茫然と見送る弁慶だった。