初心-5-

弁望31

「べ、弁慶さん!」
驚愕している望美の声に、弁慶は何事かと慌てて駆け寄った。

「どうしたんですか? 望美さん」
「わ、私……病気かも……」
泣きそうな顔で告げる望美に、弁慶が言葉を
失う。
昨夜、ようやく真実夫婦となった矢先の、未来に暗雲を漂わせる望美の言葉に、弁慶は動揺を隠し問う。

「どうしてそう思うんですか? どこか痛いところでもあるんですか?」
「こ、これ……」
おずおずと着物の合わせ目を緩め、望美が指差したのは紅の痕。
それは昨夜、弁慶が睦事の中で望美に刻んだものだった。
表情の和らんだ弁慶に、全く分かっていない望美は不安そうに弁慶を見上げる。

「私、病気なんですか? そんな……まだ少ししか一緒に過ごせていないのに……」
瞳を潤ませ俯く望美に、弁慶はそっとその身を
抱き寄せた。

「大丈夫ですよ。それは病気じゃありません」
「え? 本当ですか!?」
「ええ」
にこりと微笑んで頷くと、望美がほうっと安堵の息を漏らす。

「でも、こんなに身体中いっぱい……」

昨夜たくさん虫に刺されたんでしょうか?
無垢な呟きに、苦笑が漏れる。

「虫ならここにいますよ?」
「え?」
手首を取って強く唇を寄せると、紅の花が浮かび上がる。

「あ……っ!」
「ね?」
ふふっと楽しげに微笑まれ、望美が真っ赤に染まる。
全身に刻まれた紅の印が、昨夜の睦事を思い出させたのである。

「ご、ごめんなさいっ!私ったら勘違いしちゃって……っ!!」
「いいえ」

ワタワタと逃げようとする望美を、しっかりと
胸に抱きしめる。
無垢なる様は、彼女が自分以外の男を知らぬと
いうことで。
胸の中にふわりと歓びが満ちてくる。

「望美さん……愛してます」
耳元での囁きに、初心な望美が全身紅に染まる。

「おや? 君はかえしてくれないのですか?」
「~~~~~」
覗き見れば、望美が羞恥に潤んだ瞳を向ける。

「……好きです」
「え?」
「私も弁慶さんのこと……愛してます」
言うや、腕の中に逃げ込んで顔を隠してしまった望美に、弁慶が幸せそうに微笑む。

「愛してますよ……望美さん」
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