幸せな未来

弁望20

朝、目が覚めて、見慣れない天井に目を丸くして。
ここはどこだろうと考えて、思い出したのは先日の出来事。
厳島で君を元の世界に返したくないと弁慶に乞われ、共にこの庵で住むようになった。
まだ慣れずに、目覚めるたびにここはどこだろうと考えてしまう自分に苦笑すると、ほのかに感じた米の炊けるにおいにハッと身を起こした。

「またやっちゃった……!」
窓から漏れる光は明るく、また寝過ごしたのだと気づいて飛び起きると、慌てて身支度を整え部屋を出た。

「おはようございます。
ごめんなさい、寝坊して!」

「おはようございます。大丈夫ですよ」

挨拶を口にすると、鍋の傍で弁慶が微笑む。
共に暮らすようになって、今まで譲に任せきりだった料理を作るようになったものの、料理の腕前以前にどうにも早起きが苦手で、こうして寝坊してしまっていた。
そんな望美に、弁慶は文句を言うこともなく、
こうして朝ご飯を作ってくれる。
それが情けなく、望美は肩を落とすとせめてもと椀を取り出し、よそうのを手伝う。

「そんなに気にしないで。まだ疲れが抜けないんですよ」

「それは弁慶さんも同じじゃないですか」

「ふふ、髪が乱れてますよ? そんなに慌てなくても大丈夫です」

「えっ!?」
指摘に慌てて髪に手をやると、冗談ですと微笑まれて、ぷくりと頬を膨らませた。

「弁慶さん!」
「さあ、冷めないうちに食べましょう? 譲くんのように、とはいきませんが君の口に合うと良いのですが……」

並んだ料理に文句を飲み込まされると、いただきますと手を合わせて、弁慶の作った汁物を口に
する。
望美が味噌汁が好きだと知ってあわせられた味に、その思いが嬉しくて申し訳ない気持ちが膨らんだ。

「明日は絶対早起きします」
「ふふ、では楽しみにしてますね」

まったく楽しみに出来るような料理ではないのだが、こうしていつも微笑んでくれる弁慶に、望美は改めて彼と共にある幸せをかみしめる。

生きていてほしいと、そう願って時空を駆けた。 そうして掴んだ運命の先で、彼は望美を望んでくれた。
叶うと思わなかった想いが報われて、続く幸せの日々にいまだに慣れず戸惑ってもしまうけど、
この日々は望美が望んだ以上の幸せな未来だから。

「弁慶さん、幸せですか?」
「ええ、もちろん。君が傍にいてくれるんですから」
つい尋ねてしまった思いに、けれども微笑み肯定してくれる。
そのことが幸せで、嬉しくて、「私も幸せです!」と望美も微笑み返した。

2018/02/11
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