ふぅと漏れたため息に、望美が振り返る。
「弁慶さん? 緊張してるんですか?」
「えぇ。宝珠に選ばれたとはいえ、僕のようなものが清らかなる神子である君を守る八葉で本当にいいのか、実は不安なんです」
「そんなこと……っ弁慶さんは立派な八葉です!!」
必死に言い募る望美に、弁慶は切なげに微笑む。
「八葉ならば神子と心通わせあって、術を使うことが出来るんですよね?」
「そうですね」
すでに譲や景時などとも術を使ったことのある望美はこくりと頷く。
「僕も彼らと同じように出来るでしょうか?」
「大丈夫です。私、弁慶さんのこと信じてます! あ、それなら怨霊をネコで、自分を虎と思っちゃえばへっちゃらかもしれませんよ?」
ずれた内容で一生懸命励ます望美に、その手をとると熱い眼差しで囁く。
「では……僕に寄り添って、心を合わせてくれますか?」
「は、はい」
唇が触れそうなほどの距離に望美はドキドキしながらも、術を発動させるために弁慶に寄り添う。
そんな望美の後ろで密かに笑みを浮かべると、
そっと肩に手を置いて耳元で甘く囁く。
「望美さん……いいですね?」
「は、はい!」
耳に触れる甘い吐息に背筋がぞくぞくとするも、懸命に耐えて頷く。
ふわりと二人の気が合わさり、弁慶の宝珠が光り輝く。
「君の敵は砂塵に変えて眠らせましょう、地久滅砕!」
弁慶の掛け声に大地が揺れ、裂け目が怨霊を飲み込んでいく。
怨霊が弱ったところで、弁慶が封印を促す。
「望美さん、今です」
「はい!めぐれ天の声、響け地の声。かのものを封ぜよ!」
怨霊の魂に呼びかけると、神気に包まれるように浄化されていく。
「やりましたよ!」
「君が喜んでくれるなら、次も力を尽くしましょう」
喜び振り返ると、弁慶が穏やかに微笑む。
その姿に、望美がん? と眉を寄せる。
「……弁慶さん、なんか全然余裕じゃありません?」
「そんなことありませんよ」
「……そうですか?」
疑いの眼差しを向ける望美に、弁慶は切なげに息をはくと、彼女の手をとり己の胸に当てる。
「べ、弁慶さんっ!」
「ね? 緊張で早鐘を打っているでしょう?」
手をとり抱き寄せられるように問われるが、自分の胸の方がずっと鼓動が激しくて、弁慶の鼓動の速さなど測りようがなかった。
「望美さん?」
「は、はいっ!?」
動揺して声がひっくり返った望美に、弁慶がくすくすと笑う。
「君は本当に可愛い人ですね」
真っ赤に染まった望美の手の甲に触れるだけの口づけをすると、弁慶は外套を翻し去っていった。