「君は時々、まるでこの先の未来を知っているかのようなことを口にしますね」
弁慶の言葉に、望美はぎくりと身を強張らせる。
「弁慶さん……?」
「神子の先視といってしまえば不思議でもないのかもしれませんが」
弁慶の心の奥を見透かすような瞳に、望美はつい顔をそらしてしまう。
弁慶の言っていることは真実だった。
望美に先視の力などない。
あるのは、時空を遡る力を持つこの白龍の逆鱗。
望美は一度、炎の中で仲間を失い、一人白龍に
召喚された直後の世界へと戻された。
一緒にあの世界へ飛ばされた将臣も譲も、あの世界で自分を助けてくれた九郎や朔・景時や白龍・ヒノエ・敦盛・リズヴァーン……そして弁慶も置いて一人逃れてしまったのだ。
そんな自分が許せなくて、こんな未来を認めたくなくて、もう一度逆鱗の力で舞い戻ってきた。
全ての人を救い、全ての人を幸せにする。
そんな我儘が叶えられるかはわからないが、それでも出来る限り皆が幸せでいられるように、未来を変えていきたかった。
それがたとえどんなに大逆であったとしても。
「……」
黙ってしまった望美を、そっと弁慶が抱き締める。
「べ、弁慶さん?」
「君が話したくないのならば、それでも構いません。だけどどうか一人で思い悩んで、一人陰で
泣くようなことだけはしないでください」
弁慶に心の内を見透かされ、望美は驚いて顔を
あげようとする。
しかし、抱きしめる腕がそれを阻止した。
「たとえ君の苦痛を取り除けなくとも、頬を伝う涙を拭うことぐらいはできますから」
身体を包み込むぬくもりに、真実を告げたくなる。
それでも、望美はぐっとこらえて口にでかかった言葉を喉の奥に流し込んだ。
「ありがとうございます、弁慶さん」
にっこり微笑むと、弁慶の腕が緩まる。
本当はこのぬくもりに包まれていたいけれど、自分にはどうしても変えたい未来がある。
決意を宿した望美の瞳に、弁慶は少し寂しげな笑顔を浮かべるともう一度告げる。
「苦しい時は一人でため込まず、僕でも他の誰かでも構いませんから教えて下さいね」
「……はい。ありがとうございます」
弁慶の背中を見送りながら、望美は涙が溢れそうになるのをこらえた。
泣いてなんかいられない。
炎に包まれたあの日。
あの悲しみをもう二度と繰り返さないために。
望美は身体に残った弁慶のぬくもりをつなぎとめるように、両腕で自身を抱きしめるとそっと彼の名を呟いた。