無事敦盛との再会を果たした望美は、今は熊野のヒノエのところにお世話になっていた。
というのも、貴族の子息であった敦盛と、親元でまだ高校生だった望美が家事など出来ようもなく、二人で生活するにもまずは一通りの家事を覚えなければならなかったからだった。
そうして本日の家事修行を終えて自室へと戻った望美は、はぁ~と頭を抱え込んだ。
「どうしよう……明日だったなんて……」
何気ない会話から、明日が敦盛の生まれた日なのだと知った望美は、大いに慌てていた。
大好きな人の誕生日。
しかし、ご馳走を作るスキルもなし、市に物色に行く時間もないとあって、望美は泣きたい気分だった。
「花の顔を曇らせてどうしたんだい?」
「ヒノエくん」
隣りへとやってきたヒノエが、すっと小さな包みを差し出す。
「なに?」
「開けてご覧」
促されて包みを開くと、中から出てきたのは梅の形をした唐菓子。
「わっ、可愛い!」
「ふふ、笑顔が戻ったね」
「ありがとう、ヒノエくん」
この世界では珍しい揚げ菓子を口に入れると、優しい甘さがいっぱいに広がった。
「で、姫君は何を思い悩んでいたのかな?」
「あ……」
ヒノエの言葉に、視線を唐菓子に落とした望美は、ふと動きを止めた。
「望美?」
「……これであれを折ったら……」
なにやらブツブツと呟いている望美に、ヒノエが首を傾げる。
と、顔を上げた望美が目を輝かせて手を掴んだ。
「ありがとう、ヒノエくん!」
そのまま一心に、唐菓子の包み紙で何かを折り始めた望美に、ヒノエは目元を和らげると、邪魔をしないようにそっと部屋を後にした。
翌日。
「神子? 用とは一体……」
朝会うなり、手を引かれて望美の部屋へと連れて行かれた敦盛は、困惑しながら彼女を見た。
「敦盛さん、お誕生日おめでとうございます!」
「誕生日……?」
「あっ……個人の生まれた日を、私のいた世界ではそう呼んでお祝いするんです」
望美の説明に頷き、彼女の掌にちょこんとのっているものに視線をやる。
「神子、これは?」
「これは折り鶴です。紙を折って作るんです」
手渡された折り鶴にそっと触れてみると、それは確かに紙で作られたものだった。
「鶴は幸運の象徴なんです。敦盛さんにはこれからいっぱい幸せを感じてもらいたいから」
本当はもっとちゃんとした贈り物をしたかったんですけどね、と申し訳なさそうに微笑む望美に、敦盛は緩やかに首を振ると、ふわりと笑みを浮かべた。
「ありがとう、神子。いや……望美」
「!!」
「今はヒノエの好意に甘えている状態だが、きちんと生活が整ったら……私の奥方になってもらえるだろうか」
思いがけないプロポーズに、望美の瞳が揺れて涙が溢れ出す。
「望美?」
「嬉しい……です。今日聞けるなんて思ってなかったから……」
美しい涙をこぼし微笑む女性に、そっと指で拭ってもう一度言の葉を重ねる。
「……私の奥方になってもらえるか?望美」
「はい……!」
笑顔で頷く愛しい女性を腕にしっかりと抱きとめる。
「……ここで口づけの一つでもすれば、完ぺきなんだけどね」
「…………っ!!」
「ヒノエくん!?」
部屋の入口で、腕組みをして微笑むヒノエに、敦盛と望美が顔を真っ赤に染めて振り返った。
「今日は宴だね。敦盛の生誕祝いと――二人の婚約祝い」
ぱちりと片目をつむって口の端をつりあげたヒノエに、二人はこの上もなく幸せそうな笑みを浮かべる。
今日、あなたが生まれてきてくれたこと。
そして今、私の隣にいてくれること。
その奇跡に感謝をこめて――Happy Birthday!